「北野武の暴力描写が海を渡る。」BROTHER すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
北野武の暴力描写が海を渡る。
◯作品全体
北野作品における暴力とそれに至る登場人物の感情は、とても日本的だと感じる。
一見冷静に挑発を聞き流しているようでもしっかりと怒りを噛み締め、一線を越えたら突如暴力を爆発させる。殴る前や殴った後に流れる一瞬の静寂が印象的だ。表情での表現は乏しく、爆発的な暴力が対比的に描かれ、そのコントラストが登場人物の黒い部分を浮き彫りにする。こうした「静」と「動」の急激な緩急は、歌舞伎で言う見栄の表現にも繋がるし、シャイな日本人の秘めた感情を誇張しているようにも感じる。
本作ではそんな日本的な北野武の暴力が、アメリカを舞台に表現される。
主人公・ヤマモトは先に述べた暴力を表現する人物だ。挨拶のように暴言を吐き、英語がわからないと見ると平気で日本人を見下す人物たちは、きっと今まで「日本人はシャイでなにも言い返さない」と認識しているのだろう。そこへ炸裂する北野武的暴力。言葉で反論したりするのではなく、受け取った怒りを静かに、そして大胆に爆発させる。指詰をさせるところは少しデフォルメチックな表現だったが、異国の地で徐々に伝播していく日本ヤクザ的・北野的暴力は時にシュールで、時に刺激的だった。
終盤、次々と散っていく仲間たちの描写も容赦のなさが素晴らしい。正義と悪の構図で語るのではなく、力で翻弄し、翻弄される実直なストーリーの冷酷さ。北野作品の一番好きなところだ。
しかし弟のケンやヤマモトを慕うデニーと、タイトルにもある(ヤクザ的な意味の)兄弟を表現できていたかは首を傾げるところだ。『ソナチネ』にもあったような飾らずにふざけ合う姿は随所にあったが、異国の異人種との兄弟の表現は、もう少し違ったストーリーであったり、演出の肉付けをしてほしかった。
ヤマモトがデニーに大金を残していたことがわかり、デニーが「アニキ」と呟くラストも、結局は金か、と思ってしまった。それがアメリカでの「BROTHER」なんだ、と言うことであれば、なんとも皮肉なラストだ。
◯カメラワークとか
・この頃の北野作品は良くも悪くも演出に試行錯誤があって面白い。本作だとダッチアングルと首から下を映すアングル。
ダッチアングルは冒頭でアメリカにやってきたヤマモトを引きで映す時と、リムジンを映すシーンの冒頭。どっちもダッチアングルから徐々に水平に戻すっていうのをやってた。普通この演出ってギャグでやるんだと思うんだけど…
首から下のカットはヤマモトがケンと再会したあたりのシーン。英語が話せないヤマモトの孤立を表現していたように感じた。
◯その他
・渡哲也はミスキャストだったし、登場シーンのカット割りも最悪だったなあ。北野武作品の面白さって「この人ってこういう役も似合うんだ」みたいな、普段のイメージとは違う役柄の意外性とか、抜擢が面白かったりする。『ソナチネ』の大杉漣とか『アウトレイジ』の小日向文世とか塩見三省とか、『ソナチネ』や『HANA-BI』に登場した普通のオッサンみたいな一流殺し屋とか。渡哲也じゃそのまんまじゃん…。しかも日程調整が難しかったのか知らないけど、渡哲也のカットだけ渡哲也しか映らなくて眼の前にいる幹部たちと同じカメラに入らない。結果カメラが固定されてて、めちゃくちゃ違和感あるカット割りだった。あそこだけ学生の自主制作映画みたいな下手くそ感があった。映ってるのが渡哲也だから尚更、いびつな感じになっちゃってる。
・寺島進が演じた加藤は良いキャラだった。アメリカについてきたときの頼れる右腕っぷりとか、死に際とか。異常な潔さが良い。でも『アウトレイジ』だったら絶対犬死になってただろうなあ。