「幸せについて。シンプルに。」お坊さまと鉄砲 TSさんの映画レビュー(感想・評価)
幸せについて。シンプルに。
冒頭のローアングルから撮る小麦畑が綺麗だ。ここに行って、日がな1日ノンビリ過ごしてみたいと思ってしまう。
のどかな村に「選挙」なる得体の知れない舶来物がやってくるとラジオが告げる。
老僧が「満月までに鉄砲2丁調達しろ」と物騒な台詞を吐く。
弟子は「承知」と鉄砲調達の旅に出る。
風雲急を告げるのかと思いきや、弟子は歩いて探しに行く。切迫感がない。マイペース。
選挙は選挙で、模擬投票に向けた動きもどこか間が抜けている。どちらもノンビリである。
王政の続いた国が初めて民主選挙をする。小さな村の中で、支援する候補者で割れる大人たち。そのとばっちりを受ける子供。どこかの民主主義大国を彷彿とさせる。
近代化を是として村人を選挙に引っ張り出し、煽ろうとする役人。それに皮肉を吐き捨てる老婆。
「選挙して民意を示せば幸せになれるの?今までも幸せだったよ」村人のシンプルな疑問は、本質を突いている。
秘蔵の骨董銃を売り渡す借金おじさんは、7万ドルの買値を「高すぎる」と言ってアメリカ人を驚かせる。そして、後からやってきた弟子僧に無償提供。
弟子僧は、
・ドルいくらでも払うから銃を売ってくれと言われ「大金もらっても使い道がない」
・新品10丁との交換を提案されると「銃は2丁でいい。10丁いらない」
・アメリカは人より銃の数が多いんだと聞き「え?本当?」(某民主主義大国への皮肉)
親に翻弄される子供は、選挙のお姉さんから貰った消しゴムを「お姉さんの方が必要だから」と返す。
カネとモノはあればあるだけいいってもんじゃない。必要な人に、必要なときに、必要な分だけないと意味がない。シンプルである。本質を突いている。
すったもんだあって、満月の日までに1丁+おまけ2丁調達できた銃。
使い道は、「憎しみを捨てるための供物」。そして、銃より大事な”アレ”をプレゼント(じいさんが一生懸命彫って形ができていく様を凝視してしまったよ)。
国の形を変える一大イベントを村人の視点で、民主主義、資本主義、幸せ、豊かさの意味という壮大な問を、押しつけがましくなく、ノンビリ、シンプルに投げかけてくる。深い。
ラストシーンもいい。政治が変わっても、人が変わっても、変わらない自然がそこにある。どうか、この自然だけは、このままであり続けて欲しいと願う。
共感とコメント、ありがとうございます。
「民主主義」を獲得したのではなく、与えられたものだから、こんなふうなのだろう、と思いました。
選挙を教えるのに、相手を罵倒することまでは必要ないですよね。