「いろいろと示唆に富んだロードムービー」Flow kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
いろいろと示唆に富んだロードムービー
この監督が前に撮った映画「Away」は、映像はキレイだけど話がわかりづらく表情や動きがぎこちないという印象だった。それが本作でアカデミーの長編アニメ賞をとるという大出世。驚いてしまう。
まず映像美に圧倒される。前作も映像はキレイだったからわかっていたが、やはり凄かった。驚いたのは猫の表情の豊かや、動物たちの動きが滑らかだったこと。猫の本能や特性をちゃんと押さえたリアルな動きがとてもいい。その猫が他の動物たちと同じ船に乗り、タイトル通り水の上を流れていくロードムービーだった。
予告編を見ていたが、なるほど実は大洪水となった世界が描かれていたのか。時代や地域も全くわからない。登場するクジラのような巨大魚は古代生物のようでいて怪物のようにも見える。そもそも架空の世界かもしれないと思わせる。しかも人が全く存在しない世界だった。いや、人が生活していた痕跡は映し出される。どこかに移住したのか消えてしまったかのようだ。森の中で木の上に引っかかっている船が見えたから、大洪水が起こったのはどうやら1回ではないみたいだし、人類が滅んでしまった世界なのかもしれない。
猫がカピバラやサルや鳥、そして犬とともに1艘の船で漂流する展開は、ノアの方舟を連想させる。それぞれの動物の立ち位置や性格のようなものもいろいろと示唆に富んでいる。普通に考えればコミュニケーションなんてとれるわけがない。大きな諍いや強い絆が生まれるわけでもない。セリフがないからそもそも仲間意識があるのかどうかも怪しい。ディズニーやドリームワークスのアニメとは違うところだ。この先、彼らは一緒に暮らすわけではないのだろう。次の大洪水で死んでゆく運命かもしれない。でも水面に映る彼らの姿と、最後の猫の仕草ににちょっとした絆を感じるのは感傷的すぎるだろうか。