「文章がない大人の絵本」Flow kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)
文章がない大人の絵本
近年の映画のトレンドは大手スタジオではなくインディーズなのかもしれない。
今年のアカデミー作品賞はインディーズの「アノーラ」だったし、アニメーション賞も並み居る大手スタジオ作品を抑えて、受賞したのがインディーズの低予算作品の今作だったのだ。
もともと米アカデミー賞は大作志向が強かったのだが、近年は多様性や手作りの上質な作品に配慮する傾向を強めているように感じる。
今作品もラトビアのギンツ・ジルバロディス監督がフランスで少人数のアニメーターでオープンソースの3DCG制作ソフト、Blenderを使用して制作されたという。
内容は何らかの理由で人間がいなくなってしまった世界で家猫であったと思われる黒猫が大洪水のなか、流れてきた船で他の動物と一緒に冒険するという話。
セリフや解説は一切ないので、見たものを自分で解釈するしかない。
明らかに人間が築いた文明があり、その人間がいなくなった事、大洪水で大地が海(?)に沈んでいく事、水の中には多様な魚や動物が暮らしている事、人間が作ったものではなさそうな高く尖った山、船は方舟にも例えられそうな事、など哲学的な解釈は人それぞれに可能だ。
で、結局それぞれのシーンの意味はよくわからない。
そこは深く考えるより、大人の絵本として美しいアニメーションの世界を感じればいいのだと思う。
ただ、欧米のアニメーション作品に多いのだが、道徳的な意味が強い事や、自然を描いていて、動物たちが主人公でありながら、どこか人間からの視点のような気がしてならない部分は気になる。
無料の3DCGソフトを使っているからなのか、肝心な動物の毛並みがほぼ表現されておらず、ぬめりとしているのが気になり、最初の30分くらいが気になって仕方なかった。
正直言って、本制作前のプロトタイプのよう。
一方でハンディカメラのように縦横無尽に動くカメラアングルはアニメーションならではの気持ちよさ。
水の表現にいたっては水専門のアニメーターが専用ソフトを開発したそうで表現が美しい。
割り切って表現を捨てている部分と精緻な部分が混在していてアニメファンからすると技術面では疑問が残る。
次作では巨額の制作費が入るだろうからその利益をどう活かすのか注目したい。
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