「タイトルなし(ネタバレ)」エマニュエル りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
もともと鑑賞予定ではなかったのですが、あまりエロティックでないとの前評判でかえって興味が湧いた次第。
大手ホテルチェーンの品質管理部門の評価員エマニュエル(ノエミ・メルラン)。
常に整然とし堅物、鎧を着ているイメージの女性だ。
今回の査察は香港のホテル。
ホテルのGM、マーゴット(ナオミ・ワッツ)も同タイプで、ホテル自体も整然としている。
だが、トップはマーゴットを更迭したいので、粗を探せとエマニュエルに命じる。
そんな中、エマニュエルはホテルの太客、日系米国人シノハラ(ウィル・シャープ)に惹かれる。
彼もまた、整然として知的だが、予約したホテルの部屋には宿泊しない。
自由で謎めいている。
そんな彼に誘われるように、エマニュエルはそれまで一歩も出なかったホテルから外の香港の街へ出る・・・
といった物語。
シルヴィア・クリステルが主演した映画の時代より、ビジネスや社会のシステムが女性たちは縛られていることが多い。
そんな女性の精神的解放の物語、とわかりやすく、やや型通りな感じもするが、悪くない。
前評判で「あまりエロティックでない」といわれている官能シーン、これもかなり計算ずく。
主役のノエミ・メルランは体格も良く、無骨な印象で、精神的に解放されていない前半の官能シーンは無機質に撮られている。
特に、飛行機内のそれは、シノハラとの会話の中で、エマニュエルに「リズムを数えていた」とまで言わせている。
中盤、ホテルのプールサイドで売春をしているアジア人女性ゼルダ(チャチャ・ホアン)に誘われるシーンも、エマニュエルは反応しない。
(注目すべきは、ゼルダがとるポーズと、クライマックスでエマニュエルがとるポーズが同じこと。演出が細かい)
中盤までの官能シーンの無機質感覚からエロティシズムを期待している向きはガッカリするだろう。
が、シノハラに部屋に忍び込みバスタブでのシーンからクライマックスの官能シーンはうって変わっての柔らかい演出。
対比が見事。
興味深いのは、ホテルGM・マーゴットの台詞。
わたしが着任して最初に取り組んだのは、ホテルのBGMを変えること。
特別なリズムで、BGMにあわせて客たちは制約から徐々に解放されていく。
エマニュエルやマーゴットは客の制約を外させようと努める側だが、自身は鎧のようなものを身に着けて縛りつけられている。
制約を撮り外すための装置が東洋的神秘趣味というだけではなく、もうひとつ何かがあるような気がするのだが、(それがシノハラの生き方なのかもしれないが、それも東洋的神秘にみえる)、何かを見つけられなく、少々もどかしい気がしました。
スパッとエンドクレジットに入るあたりのカタルシスは、最近の映画では珍しいと感じました。