「香港映画のNEXTステージは、男子の憧れ特盛ハッピーセット!」トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
香港映画のNEXTステージは、男子の憧れ特盛ハッピーセット!
80年代香港、九龍城砦(日本ではクーロン城として知られる)を舞台に繰り広げられる、漢達の熱い闘い!!かつての香港映画に敬意を表しつつ、拘り抜かれたセットとCG、ワイヤーアクションといった現代ならではのアプローチも加えられた、正に香港映画NEXTステージ!!
日本円にして10億円という製作費を投じた九龍城砦のセットの作り込み具合が素晴らしい。
また、日本からもアクション監督には『るろうに剣心』シリーズの谷垣健治氏、音楽には日本のサントラ界の大御所である川井憲次氏が参加している。
本作の特徴を端的に表すと、「どうせ男の子って、こういうの好きなんでしょ?」というありとあらゆる要素を兼ね備えた、“男子の憧れ特盛ハッピーセット”! !こんなん面白いに決まってる!!
個人的にオールタイムベスト級の大傑作ッ!!間違いなく、今1番観るべきアクション映画!!
「まるで少年漫画みたいな激アツさ!」と思っていたら、何と原作はコミック&小説というから納得だ。友情・努力・勝利と、某少年漫画雑誌顔負けの激アツな展開と魅力的なキャラクターの数々に痺れる。
舞台となる80年代から更に遡ること30年前、かつて九龍城砦の覇権を巡り、黒社会の人間達による苛烈な抗争が続いていた。中でも最大勢力となっていたのは、「殺人王」の異名を持つ鎌使い 陳占(チャン・ジム)を擁する雷震東(ロイ・ジャンドン)の派閥だった。しかし、雷震東と陳占は、龍捲風(ロン・ギュンフォン)の前に敗れ去る。九龍城砦を巡る抗争は、龍捲風が頂点に立つ事で幕を閉じた。
時は80年代香港。天涯孤独の身として密入国した陳洛軍(チャン・ロッグワン)は、偽身分証を手に入れる為、黒社会の一派閥、大兄貴(大ボス)の主催する賭け試合に参加し勝利する。腕を買われた洛軍は、大兄貴から組に入るよう誘われるが、黒社会との関わりを持ちたくない洛軍はこれを拒否。後日、仕返しとばかりに大兄貴は洛軍に不出来な偽身分証を渡し、社会勉強とばかりに諦めて立ち去るよう命じる。怒った洛軍は、すかさず大兄貴の金袋を盗み逃亡。大兄貴の側近 王九(ウォンガウ)らの追手を免れ、九龍城砦に逃げ込む。
しかし、洛軍が盗んだ金袋の中身は、札束ではなく麻薬だった。仕方なく麻薬を換金しようとするも、島荒らしと勘違いされた洛軍は九龍城砦のNo.2 信一(ソンヤッ)達に追われてしまう。逃げ切る為、理髪店に入り店の主人を人質に取ろうとする。しかし、洛軍はその主人から反撃を受けノックアウトされてしまう。実は、その理髪店の主人こそが、九龍城砦のボスである龍捲風だったのだ。
やがて、九龍城砦で金を稼ぐ事にした洛軍は、信一をはじめ、顔の傷を隠す為マスクを被った医者の四仔(セイジャイ)や、廟街を縄張りとする虎兄貴(タイガー)の手下である十二少(サップイー)といった面々と交流を深めてゆく。しかし、洛軍の出生の秘密が暴かれる時、再び九龍城砦に抗争の幕が上がろうとしていたーー。
本作最大の魅力は、なんと言っても個性豊かで魅力的なキャラクターの数々だろう。
・天涯孤独の身で腕っぷしだけを頼りに香港にやって来て、九龍城砦に居場所を見出し成長して行く洛軍は、まさに少年漫画の主人公。
・九龍城砦のNo.2にして、端正な顔立ちのナイフ使いである信一は、洛軍の良き友であると同時に頼れる兄貴のよう。城砦内をバイクで疾走する姿も印象的。
・巨漢のマスク男というだけでもインパクト十分なのに、更に日本をはじめとした各国のAVを収集する医者の四仔は、コミカルかつ頼もしい存在。作中で「顔に傷を負う前は、田原俊彦似の色男だった」と語られ、クライマックスで遂にマスクを外して登場する彼の素顔が、傷がある事でむしろ色気の増したハンサムワイルドなのはお約束。
・本来なら違うシマの人間ながら、龍兄貴への恩から九龍城砦に入り浸る十二少は、オシャレに夢中な日本刀使い。常に髪型を気にしてセットしているが、内には義理堅い漢気を宿している。
・御年73歳(撮影当時は72歳?)ながら、若者に負けじとアクションに挑む香港映画界の大スター サモ・ハン演じる大兄貴は、葉巻を吹かせたいかにもな悪党。しかし、演じるサモ・ハン自身のキャラクターあってか、何処か憎めない。また、漫画が好きらしく、作中でも度々漫画を読んでいる(あれって、もしかして『北斗の拳』?)。
・大兄貴の側近で気功術の達人 王九は、長髪にサングラス、癖のある笑い方をするサイコ味と胡散臭さのある不適なキャラクター。気功術を用い、印を結んで「硬直」と唱える事で、刃物すら通さなくなる鉄壁の肉体に変化する強キャラ設定は、小中学生男子が観たら間違いなく翌日学校でマネをするだろう。
・九龍城砦のボスにして、人々の良き相談役で理解者。自身の身体は着実に病に蝕まれながらも、尚も最強としての実力を誇る龍捲風(いや、作中のようにこれからは龍兄貴と呼ばせていただく!)の圧倒的な存在感!
これだけ魅力的なキャラクターが揃っており、尚且つ、皆が皆ちゃんと強いのだ。
本作を鑑賞すれば、貴方もきっと“推し”を見つけられる事だろう。
私の推しは、勿論 龍兄貴!ハンデを背負いつつ尚も最強として君臨する圧倒的強者感。洛軍の出生の秘密を知る者として、彼の命を狙う義兄弟の秋兄貴との間で葛藤する姿。洛軍達を逃す為、自らが犠牲になるシーンは、思わず心の中で「龍兄貴ーー!!」と叫んでしまった。演じるルイス・クーは既にかなりのベテラン俳優なのだそうだが、私は本作で初めて彼の存在を知った。最高のキャラクターを演じていただき、ありがとうございますッ!!
脚本の魅力も素晴らしい。基本的には、ヤクザ者同士のシマ巡りの抗争話だが、随所にコミカルさや伏線も散りばめられ、シリアスになり過ぎない絶妙な塩梅を保っている。
特に、四仔が日本のAVに精通している為に日本語の説明書が読める・話せるというギャグを、クライマックスでの王九戦で「ぶっ殺すぞ! このヤロウ!」と言わせる。
4人が交流を深めるキッカケとなった、母親を殺された幼い少女の敵討ちの際の“ボロキレ”にするやり方を、王九に気功術を使用させない為に再び用いるといった、コメディな使い方からシリアスな使い方へという要素の回し方が上手かった。
クライマックスで九龍城砦から吹き上がる竜巻は、凧揚げの件もあって「亡き龍兄貴が起こしているのでは?」と考えると胸アツだ。また、洛軍が最後に放つコークスクリュー・パンチが、龍兄貴と同じ相手を回転させて吹っ飛ばすトルネード・コークスクリューなのが激アツ!!
アクションシーンの迫力は言わずもがな。今回は特に、舞台を九龍城砦という閉鎖空間にした事で、限られた空間内でのアクションの数々が非常に魅力的だった。
そんな九龍城砦のセットの作り込み具合は、まるで過去に戻って現地ロケしてきたかの如き圧倒的なリアルさ。エンドクレジットで映される城砦内の人々の生活描写に、これ以上ない説得力を持たせている。湿気や油で汚れた薄暗い通路、壁の落書きや破れたポスター、そこで生活するエキストラの演技は、まるでドキュメンタリー映画。また、作中度々城砦内のあちこちから生活音がするという、細部にまで徹底して拘り抜いた描写もお見事。
本作だけでも一本の映画として纏まっており、抜群の完成度を誇っているが、既に三部作としての続編2作が動いているそう。次回作では過去の九龍城砦での抗争が、最終作では洛軍達の最終決戦が描かれるという『ゴッドファーザー』方式(笑)
そんなの、期待せずにはいられない!!