「コスパの良い人生はこの世には存在せず、紆余曲折に見える道は、すべて必要な枝葉であることがわかる」ネムルバカ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
コスパの良い人生はこの世には存在せず、紆余曲折に見える道は、すべて必要な枝葉であることがわかる
2025.3.27 T・JOY京都
2025年の日本映画(106分、G)
原作は石黒正数の同名漫画(徳間書店)
インディーズバンドのボーカルとルームメイトの女子大生を中心としたそれぞれの青春を描いた音楽映画
監督は阪元裕吾
脚本は皐月彩&阪元裕吾
物語の舞台は、都内某所
大学の女子寮に住んでいる入巣柚実(久保史緒里)は、大学の先輩でインディーズバンド「ピースモス」のギター&ボーカルの鯨井ルカ(平祐奈)とルームシェアをしていた
柚実は古本屋「MAX」で働いていたが、日々の生活は困窮を極め、ルカもインディーズバンドで食べていけるほどの余裕はなかった
二人には柚実に呼ばれたらすぐに駆けつける田口(綱啓永)という柚実の同級生がいて、ルカは彼が柚実のことを好きだと思っていた
柚実は意識していなかったが、それを指摘されてまんざらでもない気持ちになっていた
ある日、田口を呼び出した二人は、食料と酒の代わりに田口の愚痴に付き合うことになった
田口は好きな人にどう気持ちを伝えれば良いかと悩んでいて、ルカは「ベランダから好きだと叫ぶぐらいの勇気がなくてはだめだ」と言い放った
物語は、翌朝の朝に田口がベランダで叫んでいるのを見るところから動き出す
海から戻った柚実とルカは田口の告白を聞いてしまう
田口はルカのことが好きで、ルカに会うための口実として柚実の誘いに乗っていたと言われてしまうのである
その後、殴っても収まりがつかない柚実だったが、田口の友人・伊藤(樋口幸平)も含めた4人で海水浴場へと向かうことになった
柚実は「自分のやりたいことがわからない」と言い、「やりたいことを見つけて努力している先輩は凄い」と言う
だが、伊藤は「先輩にも自分の限界が見えているはずで、そんな生活はコスパが悪い」と言い放ってしまう
ルカは伊藤にキレて飛び蹴りを喰らわすことになり、「御託を並べて、何もしない奴は嫌いだ」と吐き捨てた
映画は、ルカがレコード会社から連絡を受けて、プロモーションの担当・荒比屋(伊能昌幸)と音楽プロデューサー・梗間(吉沢悠)と会うところから急展開を迎える
ルカはバンドのデビューの話だと思っていたが、実はルカをソロデビューさせたいと言う話で、しかも路線はこれまでのロックではなかった
それでも、音楽で生きていきたいルカはその道を進み、バンドメンバーもそれを察して距離を置くようになる
そして、そのプロモーションはやがてバズるようになり、街のあちこちで聞かれる音楽になっていった
映画は、夢追う人の前に扉が出現し、そこを潜り抜けたと思ったら、思っていたのと違う世界だった、と言うルカを描き、その変化に戸惑う柚実を描いていく構成になっていた
ルカはメンバーと柚実をライブに招待し、巷でバズっているアイドルのような歌を聞かせることになる
柚実は凍りついたようにその場で立ち尽くし、「こんなことがやりたかったのかよ」と呟く
だが、予定の2曲を終えたルカは、ギターを手にして再びステージに現れた
そして、そこでインディーズ時代にささやかにバズった曲「ネムルバカ」を披露するのである
冒頭で「かくして先輩は失踪した」と始まる物語で、その理由が最後に示されるのだが、実際にルカがどうなったのかはわからない
原作では続きがあるようで、映画における「失踪」と言うのは、アイドル路線を進むことを決意して、以前のルカはもういないと言うふうにも見える
実際には、レコード会社に三行半をつけて行方不明になると言う路線のように思えるが、「ネムルバカ」を演奏した後に、小さな声で「バイバイ」と言うルカを思うと、前者の意味合いのようにも思える
どちらが正解かと言うところには意味はないと思うが、自分をこのステージに引き上げた者たちに対する、せめてもの感謝を表したのが最後の演奏であり、それは音楽の夢を諦めた瞬間のようにも思えてしまう
そう言った意味も踏まえれば、「柚実の知るルカはもういない」と言うことになるのかな、と感じた
いずれにせよ、青春時代に何かに打ち込んだ人、打ち込めなかった人に刺さる内容で、大人が見ても懐かしい時代を思い出す作品であると思う
音楽映画の良さ、青春映画の良さに相まって、複雑に思える感情の答えが隠されているようにも思える
自己評価と他者評価の乖離による人生の選択の難しさと言うものも描かれていて、ルカは器用な人間ではなかったのだろう
そう言った意味において、失踪にはいくつもの余韻があると思うので、感じたままに解釈しても良いのかな、と感じた
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