「筒井康隆ワールドへの真摯な挑戦が可能にする没入感」敵 E_Invulさんの映画レビュー(感想・評価)
筒井康隆ワールドへの真摯な挑戦が可能にする没入感
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老醜を晒すくらいなら己の命を絶つと意気込む元大学教授、
その均整の取れた生活は「敵」の到来を告げるメールと共に徐々に瓦解していく。
夏から秋、そして冬へと時の移り変わりを追うモノクロームの映像に
実感豊かな音を乗せて送られる主人公の末期の日々、その恐ろしいまでの実感に圧倒される。
不安、痴情、後悔、そして恍惚……打ち寄せる波にも似た感情は泡沫の夢へと溶けていき、
徐々にルーチンを保てず荒廃していく実生活に観客は主人公の老いを否応なく納得させられる。
そして孤独に震え春を待ち侘びる老翁の背に喚起させられる疑念、
「夏の輝かしき日々も既に忘我の人の妄想に過ぎなかったのでは?」……
その答えを得る者はいない。主人公も、観客も。
筒井康隆作品の本領とも言える世界観をかくも表現しきる熱演と構成に
ただただ敬服と言うほかない。
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