「タイトルなし(ネタバレ)」敵 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
妻に先立たれ、ひとり暮らしをしているフランス文学元大学教授・渡辺儀助(長塚京三)。
祖父の代からの東京郊外の一軒家暮らしで、ひとり暮らしは20年になる。
教授を辞めたあとは、年金とちょっとした原稿書き、時折舞い込む講演が収入で、貯金がゼロになる日を「Xデー」と自ら定めている・・・
といったところからはじまる物語。
全編モノクロ(色調が良い)で、前半は『PERFECT DAYS』さながら、淡々とした儀助の日常生活を描く。
この前半が素晴らしい。
儀助にとってはかなり低い位置にある流し台、米を研ぐ、魚を焼く、麵を茹でるなどの動作・所作がリズムよく描かれている。
が、枯れているようで枯れていない。
教え子で編集者の三十路女性・鷹司(瀧内公美)が訪問すると、やはり心が浮き立つ(表面に出ないようにしているが)。
小洒落たバーのマスターの姪で仏文専攻の学生・歩美(河合優実)には、何か手助けしてやれないかと思う(スケベ心が底にある)。
夢で死んだ妻の信子(黒沢あすか)が現れ、そんな枯れていない心を咎めるが、それはなんだか夢ではないような・・・
と、幻想怪奇譚めいてくる。
この途中の展開も、やや常識的な感じがしないでもないが悪くない。
が、ある日パソコンの画面に「敵」がやって来るというメッセージが流れ・・・の後が、どうもいただけない。
いや、面白いといえば面白いが、それまでに、眠って起きて・・・と繰り返し描かれたことで、唐突感が失せてしまった。
個人的には、この終盤、銃撃戦がはじまったところからカラーで、パーンと世界が変わるようなのがよかったかなぁ。
血は毒々しい赤で。
モノクロに赤の血が飛び、カラーに転調。
あっという間に儀助の目の前が真っ白に・・・(死)
飛び散る白は夢精のそれか・・・
で、「敵」が攻めて来たのが現実、かつて淡々とした生活での少々の欲情が夢だった・・・
あ、それだと別の映画になっちゃうか。
(ジョゼフ・ルーベン監督『フォーガットン』とか、別の映画ね)
四季ならぬ三季のぶった切った場面転換は印象的。
長塚京三の端正でありながら、少々のスケベ心を感じさせる演技、素晴らしい。
瀧内公美、相変わらず、清楚なのにイヤらしい。
河合優実は、フツー。
カトウシンスケの編集者が生理的に受け付けなかった(そういう演出なんだけど、やや過剰かな)。
松尾諭と松尾貴史も滋味に好演(クレジットのトメでふたり並んでいるあたりは遊び心を感じる)。
観終わった後、「ちょっと食い足りない」と感じたが、レビュー書いているうちに面白くなってきました。
面白かったのかなぁ、面白かったのかも。