「人生の敵とは老いと後悔」敵 noriskeさんの映画レビュー(感想・評価)
人生の敵とは老いと後悔
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儀助は「残高に見合わない長生きは悲惨だから」などと人生の終いをさも受け入れたようなことを言いつつ実は「老い」に争って生活をしている元フランス演劇(文学)の教授である。
食事は質素だけれどもみすぼらしいものではないし、服装を整え、体臭にも気を配る。
公演料の値は下げないし、雑誌の連載も抱えていている。
そしてまだ性欲も枯れていない。
そんな儀助の日常が揺らぎ始める。敵(老い)の存在である。
バーで知り合った娘に金を騙し取られ、馴染であったそのバーも閉店してしまう。
連載の打ち切りを告げられ社会的な存在意義も失う。
そして健康への不安(キムチを食べたぐらいで下血して内視鏡検査)。
一気に押し寄せてきた「老い」と環境の変化が彼に過去への後悔を蘇らせる。
先だった妻との生活、教え子との実らぬ情交…。
彼は「敵」と「後悔」に抗おうとするが圧倒的な力でそれらは彼に迫ってくる。
生前、彼は自分の財産を周りの人間(教え子たち)に託そうとする遺言書を用意していた。
しかし、死を身近に悟った時、甥に全財産を託すよう遺言書は書き換えられた。
※しかもかなり贅沢な希望を交えて
結局、最後は身内なのである。そしてそれが現実の世界で確実に存在した人間だから。
人間は老いはゆっくり進むと思っている。
しかし、実際にはあるきっかけで老いは一気に進むのだ。
それはまるで得体の知れない「敵」が襲ってきた時のように。
「老人文学の傑作」とも評されるこの原作をモノクロ映像で描き切ったこの映画は、東京国際映画祭でグランプリ、最優秀監督賞、最優秀男優賞の三冠を獲得したのも頷ける出色の映画だった。
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