「【”老いという敵に抗う”元フランス近代演劇史教授の姿を、彼が観る夢と現実が混交していく様をモノクロームで描いた作品。瀧内公美さんの長い黒髪のエロティックさが妖艶でありました。】」敵 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”老いという敵に抗う”元フランス近代演劇史教授の姿を、彼が観る夢と現実が混交していく様をモノクロームで描いた作品。瀧内公美さんの長い黒髪のエロティックさが妖艶でありました。】
■元フランス近代演劇史教授、渡辺儀助(長塚京三)は、妻(黒沢あすか)に先立たれ、独りで大きな平屋に住んでいる。
だが、彼の日常はベッドでぐっすりと寝て、パソコンで執筆し、食事は蕎麦、冷麺などを手早く作り、食後は珈琲豆を自ら引き、夕食ではワインは欠かさずに飲むという優雅なモノであった。
偶に、元教え子(瀧内公美)がやって来たり、行きつけのバーのアルバイトのフランス文学専攻の大学生(河合優実)と会話したり・・。
だが、ある日パソコンに”敵が北から来る。”というメールが来るようになり、彼の生活リズムは狂って行く。
◆感想<Caution!内容に触れています!>
・儀助の妄想が夢の中で、徐々に大きくなっていく様は、明らかに彼のボケの始まりであるが、聡明だった知識がその進行を食い止めている事は、直ぐに分かる。
・序盤は、彼の独りでの一定のリズムある優雅な生活が描かれる。食事もササっと手際よく作り、ササっと食べている。
フードコーディネーターを飯島奈美さんが担当しているので、モノクロでも、焼き鮭、蕎麦、冷麺、ハムエッグなどとても美味そうである。
・行きつけのバーでは借金を抱えるフランス文学専攻の大学生に、コロッと300万をだまし取られるが、それも自分が社会性がない事だと,諦観しているのである。
・が、彼の優雅な生活が、一通のメールが来たことで徐々に乱れて行く様を、作家性の高い吉田大八監督が実に上手く描いている。
辛いキムチを乗せた冷麺を食べたためにお腹を壊すシーンで、夢で内視鏡が入って行くシーンや、亡き妻が蘇り一緒に風呂に入るシーンや、元教え子と寝るシーンや(で、夢精している。お元気である。マア、瀧内公美さんだからねえ。)、元教え子から学生時代に長時間仕事に付き合い、夕食を共にした事を詰られ、いつもガバっとベッドで目覚めるようになっていくのである。
■極めつけは、儀助のお隣の老人が犬の糞の事で、いつものように女性に難癖を付けている時に響いてくるライフル音のシーンであろう。老人は眉間を撃ち抜かれ、女性も犬を追いかけて行って射殺される。
更には、元教え子と鍋を食べようとすると、出版社の男(カトウシンスケ)や亡き妻が現れるシーンからの、出版社の男が、元教え子に鍋で叩き殺されるシーンまで描かれる。
儀助はその死体を、漸く掘った井戸に捨てるのである。
儀助のボケが相当に進行している事が分かる。
<そして、儀助が書いていた遺言状により、彼の家財、書籍一式は遠縁の男(中島歩)に相続されるのだが、それも又夢、という非常にシニカルな終わり方をするのである。
この作品では、”敵”の正体はハッキリとは描かれないが、私は”老い”である、と思い鑑賞した事を記載して、レビューの締めとする。>
共感ありがとうございます。
セルフコントロールで最期を迎えようとしていた主人公の遺書書き換え、敵に敗れた、降参したって事なんでしょうか。ヨレヨレ姿が描写されませんが、自死ではない気がします。皆泣いてないし・・。
明石家さんまの番組で老人がパネラーのクイズでは、御歳90以上の方ばかりが明らかに意図的に「ボケ」てますが、この高齢の出演者たちの共通点は皆知性がある事でした。
なので儀助センセはどちらかと言えばボケにくい方だと思うのですが、子が居ないというのも、関わりがあるかもしれませんね。