「前半の展開で散りばめた要素を後半の情感にきっちり結びつけるという、作劇上の巧緻さが光る一作」最後の乗客 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
前半の展開で散りばめた要素を後半の情感にきっちり結びつけるという、作劇上の巧緻さが光る一作
人気のない深夜の街で客待ちする運転手、怪談めいた噂話、その怪談を連想させるような謎めいた女性と親子、これらが次々と登場する序盤から中盤にかけての疾走感はかなりのもので、物語の先が知りたくてついミステリアスな部分に目を奪われてしまいます。その一方で、本作が真に描こうとしているものも、冒頭から様々な形で示唆(暗示)してみせるという巧みさ。
偶然出会った親子が向かう先、そして運転手自身の過去…。結末にかけて情感に強く訴えてくる作品でありながら、諸々の要素が一つに寄り集まって一つの真実を浮かび上がらせていきます。
いざ事の真相が明らかになった時点から本作が紡いでいくのは、「あの時」を経ても忘れえない物語。そこには間違いなく、「こういう物語があってほしい」という祈りにも似た痛切な思いも含まれています。
伝えたいメッセージがあるという強烈な思いが伝わってくると同時に、中編映画として十分に面白い作品に仕上げたい、という作り手側の映画というものに向き合う誠実さを感じました。
エンドロールに登場する「あるものたち」。これこそが、まさに「忘れえぬ物語を語る」語り手そのものであると言え、鑑賞感をさらに情感溢れるものにしていました。作中のある女性の位置づけが少し分かりにくいと言えなくもないんだけど、そこは山田太一原作のある作品がヒントになるはず!
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