「ナガサキとグリーナム・コモン女性平和キャンプ」遠い山なみの光 yamamoto ryoheiさんの映画レビュー(感想・評価)
ナガサキとグリーナム・コモン女性平和キャンプ
(末尾に追記)
長崎原爆を経験した女性がイギリスに移住、映画は1982年の娘ニキとの対話シーンと、過去の1950年代の長崎での生活のシーンとを行き来する。冒頭の、母と娘の会話の短いシーンにしか込められていないのだが、この作品の底に流れているのは、核兵器への強い否定の精神と、これと戦う人々、特に女性たちへの応援のメッセージだと言うのは、反核運動に関わる私の思い込みだろうか。
この映画と、有名な80年代の英国の反核運動「グリーナムコモン女性平和キャンプ」との結び付きは、冒頭の、ニキが当時始まったばかりのこの運動を取材していることの描写と居間のテレビのニュース画面、そして母・悦子と娘・ニキの短い会話シーンだけに過ぎないが、この二人の次のやりとりに凝縮されて、今の私たちに問いかけるものになっていると思う。
ニキ ナガサキに関する家族の回顧録を出版しないかって言われてるの。
悦子 誰がそんな話に興味があるっていうの?
ニキ みんなよ。今だからこそ ちゃんと伝えなきゃ。
悦子 グリーナムと長崎は全然別の話よ。
実は、このグリーナム女性平和キャンプについては、つい最近、事件から40年も経った2021年にフランスで1時間のドキュメンタリーが作られていて、翌年NHKが放映した。つまりこれだけ「古い」話が「今だからこそ」伝えるべき、と作者やNHKの担当者が考えたためだろう。軍拡や戦争の影が濃くなっている今こそ必要な作品だと思う。そのドキュメンタリーの拙ブログの紹介記事もご覧頂ければありがたい。
「NHKが放映した「核ミサイルを拒んだ女たち - 証言 グリーナムコモンの19年」がネット上にオリジナルで復活!」(ペガサス・ブログ版)
ナガサキの惨害を潜り抜けた登場人物たちの苦しみを考えれば、非暴力である限り、ありとあらゆる手段と行動で「核」をこの世界から除去しなければならないと思う。
10/21追記:この小説が出版された1982年はグリーナムコモン女性平和キャンプは始まったばかりで、時間的に小説の題材にはなり得ません。つまり、この部分は映画で初めて盛り込まれた内容で、しかもそれは原作者イシグロ自身の意図だったということです。
