「難しいニュアンスとバランスを見事なまでに妖しく成立させている」レイブンズ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
難しいニュアンスとバランスを見事なまでに妖しく成立させている
英国人監督が日本人写真家についての映画を撮る。そこには無数の超えるべき壁があったに違いないが、結果として、一瞬にも永遠にも等しい幻想的かつ生々しい生き物の記録へ結実した。主人公の生き様を体現する浅野の演技はどんな状況にも流れるように身を任せ、その中にほのかな可笑しみをにじませる。言ってしまうと2時間、似たようなぶっ飛んだ演技が続くわけだが、しかしこの人の表現の引き出しの豊富さには舌を巻く。観ているだけで飽きさせないし、ぶっ飛んだ中に確かな感情の揺らめきが感じられるのだ。そんな主人公と対峙し、彼を照らす月のような存在の瀧内もこれまた秀逸。加えて古舘、池松が確かな存在感で彩り、さらに特殊造形によって具現化されたカラスの化身の訪問と英語による語りかけが、この映画の唯一無二の幻想性を高めていく。これら全てにおいて難しいニュアンスとバランスを見事に妖しく成立させたギル監督の情熱と表現性を評価したい。
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