「そこで何が行われたのかを知ることも大事だが、その空気から何を感じるのかも大事なのことだと思う」リアル・ペイン 心の旅 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
そこで何が行われたのかを知ることも大事だが、その空気から何を感じるのかも大事なのことだと思う
2025.2.5 字幕 TOHOシネマズくずはモール
2024年のアメリカ映画(90分、G)
祖母の生家に向かうユダヤ人のいとこ二人を描いたロードムービー
監督&脚本はジェシー・アイゼンバーグ
原題は『A Real Pain』で、直訳は「本当の痛み」、スラングは「困った奴、面倒くさい奴」という意味
物語は、NYからポーランドに向かうユダヤ人のベンジー(キーラン・カルキン)と、そのいとこ・デヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)が描かれて始まる
出発の2時間前にチェックインをしたベンジーは、ずっと変人観察を続けていて、デヴィッドの電話には一切出なかった
その後、なんとかワルシャワに着いた二人は、そこでツアーガイドのジェームズ(ウィル・シャープ)たちと合流することになった
二人が参加するのは「ホロコースト歴史訪問ツアー」で、参加者はユダヤ人老夫婦のマーク(ダニエル・オレスケス)とダイアン(ライザ・ザトビ)、離婚直後のルーツ探しをするマーシャ(ジェニファー・グレイ)、ボスニアの大虐殺を生き抜いてユダヤ教に改宗したエロージュ(カート・エジアイアワン)たちだった
ジェームズもホロコーストの経験者でもユダヤ人でもなかったが、彼らの生き方に興味を持っている存在だった
彼らは、ワルシャワを皮切りに、最終的にはマイダネク強制収容所に向かうことになっていた
そんな道中にて、いろんな歴史の爪痕を見学していくことになるのだが、ベンジーだけは「ツアー」に違和感を感じていた
それは、歴史と統計を強調し過ぎているというもので、現在のポーランドとの関わりがほとんどないというものだった
ジェームズにもツアーを初めて5年のキャリアがあり反論するものの、とりあえずはベンジーのアドバイスに従って、説明を少なくすることに努めていった
物語は、レンジーの自殺未遂半年後という時期で、ツアーに申し込んだのはデヴィッドの方だった
彼は、レンジーを元気づけるためにツアーへの参加を促し、祖母の生家と対面することで何かが変わるのではと思っていた
実際に何が変わったのかはわからないものの、レンジーの存在は参加者のマインドを少しずつ変えていた
別れる前夜のレストランでの出来事はそれぞれの心に深く刻まれていて、ベンジーとデヴィッドの本当の痛みとは何なのかを追体験するようでもあった
ベンジーはかなり多感な人間で、収容所に立ち寄った後のバンの中では、他の人が普通に談笑しているのにも関わらず、一人で何かに祈りを捧げていた
デヴィッドはここまで命に寄り添えるのに、どうして自殺騒動を起こしたかが不思議に思えていた
だが、ベンジーとデヴィッドが感じる「痛み」には違いがあって、種類も違えば、受け止め方も違っていたのである
ユダヤ人の慣習として、お墓参りに行った際に石を置くというのがあって、ラストでは祖母の生家の玄関先に石を置くことになった
近隣住民からの苦言でそれをどけることになったのだが、デヴィッドはそれを持ち帰って家の中に置いていた
それは「来ましたよ」という合図から、「行ってきたよ」という合図に変わっていて、その石には祖母の記憶とベンジーとの思い出も刻まれているのではないだろうか
いずれにせよ、自分のルーツを探る時、多くの人が「自分の命が繋がっているという奇跡」を目の当たりにすると思う
もし、ホロコーストがなければ、ベンジーもデヴィッドもポーランドにいたかもしれないが、同時にこの世に存在していなかったかもしれない
自分の人生を生きているようでも、実際には長く受け継がれてきたものを次世代にバトンタッチをする役割を担っている
それでも、戦争などがなくても途絶えるものは途絶え、続くものは続いていく
そう言った生命の因果を鮮明に映し出しているのが、あのガス室の空気で、あの場所の生命を敏感に感じ取れるのがベンジーという人間なのかな、と感じた