「オール・ユー・ニード・イズ・告白」ファーストキス 1ST KISS 鉄猫さんの映画レビュー(感想・評価)
オール・ユー・ニード・イズ・告白
40歳過ぎた頃、同僚に聞いたんです。「今でもお出かけのチューとかしたりするの?ニヤニヤ」。そしたら同僚はこう言ったんです。「僕たちは何でも言い合って来た仲なのでもう完全に家族になったんです。妻は謂わば妹と同じなんです。僕は妹とはキスしません。」。独身の私は“あー成程な“と不思議に納得してこう言ってやったんです。「確かに!俺も弟とはキスしないわ。」ってね!
ガサツ女とイヤミ男、いつしか会話もなくなり家庭内別居、離婚届提出日当日に事故に遭い夫を亡くし、偶然??にも二人が出会った場所にタイムリープを繰り返し、果たして夫を救えるか、と言う話。全編の会話センスが秀逸でもどかしい所を突いてくる。だから未来の妻と打ち明けた時に一気にもどかしさが解放され、続く“ファーストキス“でカタルシスが最高潮に達する。二回ほど涙をグッと堪えて、、、3列ほど後ろに座っていた若い女性達に涙を見られるのを恥ずかしがった訳じゃないのですが、涙ポロリをグッと堪えることが・・・堪えることが出来ちゃった、と言うのは前半の引っ掛かりがずっと頭に残っていたからです。
正直な所、カンナが何故夫を生き返らせたいのか、家族の情があるから生き返らせてスッキリ別れたいのか生き返らせてもう一度関係をやり直したいのか、どうやったらそれを達成できると思っているのかが自分にはよくわからず、若い元夫カケルをかき氷デートに連れ出すためにどうしたら良いか模索しているようにしか見えず、勿論その後の説得によって事故当日の行動を変化させて事故に遭わないようにすると云う目標だったと解る訳ですが、そんなピンポイントな影響を願うのは無理がないですかねと思える筋がイマイチしっくり来なかったんです。原作未読なのでもしかしたら原作には書いてあるのかも知れませんけども、上映時間の都合上主要イベントのみピックアップして映像化するしかなかったと云う事なら良くある話。
恋に堕ちるまでの話によくあるはずの「特別な出会い」「お互いの理解」「心の共鳴」の描写が弱いのか見逃したのか、そもそも現カンナは説得するために信頼を得ようとしていただけなのか若カケルとの一刻の恋を楽しもうとしていたのか、その辺りが見えず引っかかっていたんです。例えば王道ストーリーなら1巡目で直行でカケルを捕まえて文句を言ったら不審者扱いされて警察を呼ばれそうになる、2巡目は色仕掛けで近づいたら吉岡里帆にシッシッされて近づけない、3巡目で犬に襲われて若カケルに助けてもらうもその場でアッサリさようなら、4巡目にカケルの形見の古代海洋生物“アノマロカリス“のキーホルダーを持ってきてキッカケを作りかき氷屋に向かうことに成功するも現カケルの悪口を誰のことか伏せて言ってたらカケルに引かれてしまう、5巡目で現カケルの好きだった所を誰のことか伏せて若カケルに話している内に現カケルのことがやっぱり好きだと再認識、若カケルも何故だか他人事と思えなくなってカンナと心が共鳴し始める、とかとか素人の私が考えつくようなこんな話なら“さいきょうの凡作“確定なのですが、端的に言うと若カケルが15歳年上の現カンナにビビッと来た理由が掴めなかったんです。また松たかこさんも若く見えるから、ほんの五つぐらい歳上と見えてたって事なんでしょうかね。
とは言え、道中会話が噛み合ってくる感じ、現カンナがカケルが気に入っていた会話の感じを思い出しながら再現したかのような会話劇は“この人とならずっと一緒に居られるかも“と言う感じが出ていて、それは“ずっと一緒に居たから“と“ずっと一緒に居たのに“という「美しい思い出」と「悲しい結末」の二つの思いが交錯するように見えてやるせない気持ちになりました。話が進むにつれ気になってくるのは「これラストどうなるの?」と言うところ。もし説得に成功して現カケルが生存することになったならタイムリープする理由が無くなって若カケルの目の前で現カンナは消えるのかな、目の前から消えると言えばアニメ映画「君の名は」のクレーター円環での時空を超えた出会いと忽然と消えた時の強烈な喪失感、あんな感じの名シーンがまた生まれるんだろうか、とその瞬間を待っていました。
結局説得は成功せず目の前から消えることもなく肩透かし、過去を弄って幸せな結婚生活に変わっても事故に巻き込まれ死亡届を役所に出すはめになるバッドエンドと思いきや、この時空線では調理前に戻りたいと願う餃子が今届いたところ、タイムリープするのはこの後ですからまた1巡目から再スタートのはずです。私の考える“さいきょうの凡作“では再び何度もタイムリープを繰り返して“もう若カケルはアテにならん“と結論付け、「15年後にこれをカンナに渡せ」と若カケルに手紙を託しカケルの手の平にマジックで何か書いて目の前から消え、15年後の事故当日に手紙を読んだカンナが対面ホームに現れ線路に落ちかけたベビーカーをガッチリ掴んで誰もホームに落ちなかった、と言うハッピーエンドですかね。
映画全体がいい雰囲気、会話もセンスがあって、あと少しカケル・カンナ両者の琴線に触れる描写があれば同じタイムリープ恋愛作品の「アバウトタイム」クラスの傑作に思えたかも、30分ぐらいエピソードを追加した「ファーストキス1stKISSディレクターズカット版」が出ることがあったら必ず観てみたいですね。今気が付きましたが“餃子型タイムマシン“だったんですかね。さらにずーっと未来のカケルからの贈り物だったのかも知れません。