「2人にしかできない会話劇と空気感」ファーストキス 1ST KISS ゆあさんの映画レビュー(感想・評価)
2人にしかできない会話劇と空気感
製作陣の豪華さに加え、安定の松たか子に昨年の「夜明けのすべて」で印象的だった松村北斗というキャスティングで公開前から期待値の高かった作品。
初日の時点でクチコミ評価の高さに驚きながら2日目に劇場へ。
松たか子のチャーミングさとコミカルさがやはりすばらしく期待を裏切らなかった。
テンポよく進んでいく前半に、後半これから何を描いてくれるのか?と期待が高まった。
タイムトラベルをすることによる、タイムパラドックスやその仕組みや現代における影響などが気になってしまうとのクチコミを見かけたが、今作においてその説明は不用に思えた。
無理やりと言ってしまえばそれまでなのだが、そこを突き詰めるSFではないし、重要なのは過去に戻ることで起きる気持ちの変化のみであると感じたし、主演2人の芝居はそこに説得力を持たせていたと思う。
後半の硯駈のセリフにも「生きるか死ぬかよりもそれまでどう過ごしたか」が重要だというようなものがあり、タイムトラベルのことに言及するのは野暮ではないかと感じる。
また、この作品において硯駈の葬儀等のシーンやそれに関わる硯夫婦の両親や親戚•友人がなかったのも良かった点の一つと感じた。
葬儀等のシーンで残された側の感情や置かれた状況を表現するのはありきたりと感じることもあるし、そこを見せないことで想像力が掻き立てられる。
そこに変わって「死亡届の提出」を描くのは、配偶者との死別において、葬儀等のシーンよりもリアリティがとてもあるし、より別れを実感する生々しいものではないかと感じた。
後半のホテルのソファのシーン。
塚原監督によると台本12ページに及ぶ長いシーンだ。
2人だけのあのシーンを演じきった主演2人は見事だった。
15年後からきたカンナに伝えられた事実を、だんだんと受け入れていく様が駈の様があまりにも素晴らしかった。
「そんなあっさり受け入れられるのか」と思いそうな展開だが、松村北斗の演技が全く違和感を感じさせない。
考古学を研究している、どこかロマンのある人で過去•現在•未来は同時に存在するという説を信じている人という設定の上で、初対面のはずのカンナに対して、好意を抱いているのがわかりやすいのできっと納得するんだろうな、と。
その描写は多いわけではないのに駈のカンナへの好意は松村北斗の目だろうか、こちらがなぜか照れてしまうような、初恋を思い出させるような気持ちにさせられた。
かき氷屋の行列で後ろに並ぶ女の子2人に、駈の好意が気づかれてしまうのも納得である。
カンナが後の自分の結婚相手と気づいてからの、駈の口調や表情の変化も素晴らしかった。
自分はまだ出会ってすらいないはずなのに、隣にいることへの違和感のなさや、「ファーストキス」のシーン。
クスッと笑いながらも結末を予想すると涙なしに見られないシーンであった。
そして、なぜかこちらも恥ずかしくなるような初々しさと、長年連れ添った夫婦がするキスとの両立が不思議であった。
松村北斗の色気がすごくて、これはアイドルだというのにファンの子は大丈夫なのか?と思うほど。
事実を受け入れた駈が、作品の中では少ししか描かれてないが自分が死ぬまで15年間をカンナと幸せに過ごせるように努力し続けたんだなというのが泣けた。
きっと15年の歳月の中でカンナにイラッとすることもあっただろうし、嫌な態度をとってしまうこともあっただろうに、そこをしっかり修復しながら別ルートから結末にたどり着いた努力を思うと、、、。
冷凍餃子が着払いでなくなっていたのにも愛を感じる演出。
説明的なよくありがちなシーンを削ぎ落として、大事にしたかった部分を存分にみせてくれて満足感の高い作品。
もう一度観たい。