「“私は15年前、未来の夫と再び恋に落ちる”であり“僕は今、15年後の君に恋をする”」ファーストキス 1ST KISS 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
“私は15年前、未来の夫と再び恋に落ちる”であり“僕は今、15年後の君に恋をする”
こういう恋愛ものはほとんど劇場で観ない。
遡って調べてみたら、“THEラブストーリー”を劇場で観るのは同じ松たか子主演の『ラストレター』以来。
別に恋愛ものが苦手な訳じゃない。劇場へ観に行く気恥ずかしさはあるかもしれないけど。
だけど本作は監督と脚本家に惹かれた。
塚原あゆ子と坂元裕二。
塚原あゆ子は『わたしの幸せな結婚』『ラストマイル』『グランメゾン・パリ』が連続ヒット。坂元裕二も『花束みたいな恋をした』をヒットに導き、『怪物』でカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞。近年、ヒット作や話題作続く二人が初タッグ。
出演作にほとんど外れナシの松たか子(新春SPドラマ『スロウトレイン』も良かった!)と俳優として躍進著しい松村北斗(『夜明けのすべて』でキネ旬主演男優賞!)の魅力的なW主演。
こ、これは…! 食指が動いた。
“THEラブストーリー”を劇場で久々に。
ラブストーリーではあるが、+αの要素も。
結婚15年目のカンナと駈。(ちなみに駈は“硯(すずり)”という珍しい名字)
が、夫婦仲はすでに冷えきっており、会話もほとんど無く、寝室もご飯も別。
離婚届を提出しようとした日、駈は駅のホームに落ちた赤ちゃんが乗ったベビーカーを助け…。
気まずいままの突然の別れ。
周りは駈の行動を称え、ドラマ化の話も。
しかしカンナは、悲しみや失意より憤りすら感じていた。
妻より他人…? 他人を救うのは尊い行動だけど、残された者は…? 私の事は考えてくれたの…?
ある日首都高を走っていると、トンネルが突然崩落。
その時何かが起こり、気付くと…
全く別の場所に居た。
季節は冬だった筈が、真夏。厚着姿では暑い暑い。
何処か観光地。
カンナは来た覚えが…。
そう、ここで…。
再び会う。それとも初めて…?
駈。まだ出会う前の駈。
カンナは15年前にタイムトラベルしていた…!
タイムトラベル×ラブストーリーもよくあるジャンル。
ユニークなのは、そのタイムトラベルの仕方。車に乗って、首都高を走って、崩落事故に遭ったその先に。戻る時も首都高から。車でのタイムトラベルは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を意識…?
タイムトラベル先は同じ日、同じ場所。
自分の意に反してではなく、自分の行きたい時に。“こっち”と“あっち”を言ったり来たり。
ここら辺、『時をかける少女』っぽい…?
フリースタイルのタイムトラベルはちょっと目新しい…?
何度か駈に会いにタイムトラベル。
あちらは初対面だけど、こちらは幾度も会う内に、改めて気付く。
やっぱり私、夫がまだ好きだ。
出会いをやり直す。
未来(現在)が少しながら変わっている事にも気付く。
ならば…。運命を変えられるかもしれない。
夫との出会いをやり直し、夫が死なない未来を…。
大切な人を死の運命から救う。
すでに比較で挙げられている通りタイムトラベルの名作『バタフライ・エフェクト』と通じるものがある。
時間を遡り運命を変える事は、その世界や宇宙そのものを滅ぼしかねない危険性もあり。故に悲劇を迎える事多々。
しかし本作は結構コメディ要素が濃い。
筋金入りのSFファンからはあまりにも緩すぎてSF考証もなってないと指摘受けそうだが、軽やかな作風で間口は広い。
夫を死の運命から回避させる為、後々それに繋がりそうな些細な事を自然に変えようと。行き着けのコロッケ屋とか。
上手くいったり、失敗したり。失敗したらまたやり直し。何だかちょっと『オール・ユー・ニード・イズ・キル』を思い出した。
タイムトラベルするカンナには幾度もチャレンジだけど、駈はその都度その都度初対面。
駈の気を引こうとアプローチも。
それも成功したり、失敗したり。
ある時は、カンナが既婚者である事を知り、駈は動揺。カンナは“別れた夫”の事を話す。
夫の嫌だった所をチクチクと。うわぁ…って顔するけど、いやいや、あなたなのよ。
そんな二人のやり取りが楽しい。
夫との出会いを変えた。死に繋がる事柄も変えた。
現在に戻ったら、きっと…。
が、駈は死んだまま。
運命は変えられないのか…?
ただ一つの方法を除いて。
夫と結ばれない。
そうすれば駈は別の人生を歩み、死ぬ事もない。(『バタフライ・エフェクト』に通じるのはまさにここ!)
しかしそれは、苦渋の決断。
夫との出会いをやり直す度、夫への想いが増していた。
救いたいけど、結ばれないなんて…。
一方の駈。
会う度に初対面だが、いつタイムトラベルしても同じだった。
駈も年上の不思議なこの女性に惹かれていた…。
重暗い立ち上がりから、タイムトラベルしてからはユーモア溢れ、しんみりと自然に感動へ誘う。塚原あゆ子の巧みな演出が冴える。
坂元裕二の脚本も共感たっぷり。些細な会話、日常のあれこれ、マニアックな古生物の話まで織り交ぜて。
リアルな考証のタイムトラベルではないかもしれないけど、時の流れには過去も現在も未来も無い、全てが同時に存在しているという理論は私のSF心をくすぐる。
これは『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』っぽく、坂元裕二が古今東西のタイムトラベルの魅力や要素を詰め込んだかのよう。
豪華なキャストが脇を固めているが、ほぼ松たか子と松村北斗の二人芝居。
松たか子の15歳若返り演技が巧いのか、松村北斗の15歳老け演技が巧いのか、ナチュラルな演技、軽妙なやり取り、年齢差を感じさせない二人の温かなケミストリーに魅せられる。
舞台は明確にされていないが、静岡や山梨で敢行したというロケーションが素晴らしい。
豊かな自然、行列のかき氷店も評判になりそう。季節が真反対なのも別の次元に来た感じをさせる。
ここのロケーション巡り、してみたいなぁ…。
駈からの想いに気付きながらも、カンナはきっぱり断る。
あなたへ“好き”の感情は微塵もない。
あなたを救う為、本当の気持ちを押し殺して…。
駈はカンナの衣服に付いていた付箋に気付き、それを見て不審がる。
これ、どういう事…? 僕、2024年に死ぬの…?
君は誰…? 何処から来たの…?
カンナは全てを打ち明ける。
15年後から来た事、私たちは夫婦になる事、離婚する事、あなたが死ぬ事…。
ショックを受ける駈。タイムトラベルや自分が死ぬ事は受け入れても、カンナと離婚する事は信じたくない。
だって、こんなに好きなのに…。
最初はそうだった。でも、いつしか…。
付き合ってる時は互いの好きな所を探すが、結婚すれば互いの嫌な所を探してしまう。
独身の私の胸にも痛々しくこの言葉が突き刺さった。
ならば、結婚って何…? 夫婦になるって何…?
現実を知るカンナと、夢理想を信じる駈。
例え死ぬ事が分かっていても、君と夫婦になれるなら…。
新しい出会いからの二人の歩みに、運命はきっと変えられる…。
そう信じて。カンナは元の時代へ。駈はこの時代のカンナと出会い…。
幸せな結婚生活。それは15年経っても。
ここでユニークなのは、事情を知ってるカンナが15年前の駈に会いに来ていたが、新たな結婚生活ではカンナとの出会いがあって事情を知ってる駈が何も知らぬカンナと暮らしている。
ちょっとややこしいが、この物語に身を委ねていれば、自然と難なく。
そして運命の日。
自分の運命を知っている駈は運命を回避したのか…?
否。自分の運命を知っていても、駈は駈だった。駅のホームに落ちた赤ちゃんを見捨てる事は出来なかった。
それは尊い事だが、残されたカンナは…?
この時間軸のカンナには突然の不幸だが、観てる我々からすれば2度同じ悲劇に見舞われたカンナを見ているだけで胸が痛い…。
OPのカンナは突然死んだ夫へ憤りを感じていたが、ラストのカンナは失意と悲しみ…。
運命は変えられず…いや、変えず、カンナも観てる我々も救われぬままなのか…?
偶然見付けた夫の隠し手紙。そこに記されていたのは…
君と出会えた幸せ。
君と共に過ごせた幸せ。
他愛ないけど、日常に満ち溢れた幸せ。
君の癖、君の好きなもの、全て。
君の事がどんなに好きか。
君への溢れんばかりの感謝。
ありがとう。
OPとラストは同じシチュエーション。
しかし、伝わってくるものはまるで違う。3年越しの餃子の味も格別だろう。
あなたを失って悲しいながらも、あなたの温もりと優しさに包まれて。
近大さん
共感をありがとうございます。
松たか子さんが好きで
公開前から楽しみにしていたので
ようやく観ることができて嬉しかったです。
まさかのタイムトラベルもの
切なさいっぱいの物語ですが
あちらこちらに ユニークな場面もあったり
楽しめました(´▽`)
季節が冬から夏になるところも
カンナが 過去の世界でかき氷Tシャツを買って
着るところも可愛かったですね。
犬に絡まれるシーンもびっくりでした。
駆の選択も 悲しいけれど
助けた赤ちゃんが生きるならと
決断するところも感動的でした。
二人に残った記憶については?他にも色々雑音を覚えましたが、それには大きな意味は無かったんですね。
こうなるんだから大丈夫、いややり直す!コレが出来る設定だけなんですね。