「美に正解はある?」海の沈黙 Ericさんの映画レビュー(感想・評価)
美に正解はある?
卒業後その道には進まなかったが一応美術科出身の私。在学中美術館に足を運んだ。さすがに規模の大きい美術館が並べる作品は美しかった。ように見えた。ように見えたというのは、必ずしも私に刺さらなかった絵もあったからだ。つまり、好みだ。友達が虜になる画家の作品を綺麗だとは思っても美しいとは思えない。珍しいことではなかった。そして上野で行なわれていたいわゆるアマチュアの作品が並ぶ展覧会に付けられる賞。(なぜこれが?)もまたあった。賞を取らなくても惹かれた絵もあった。素人の感想でお恥ずかしいが、正解がない世界だと感じていた。
一人の天才贋作師。と、呼ばれる画家津山(本木雅弘)。本人から贋作ではないとのセリフもあるにはあるが、元になる絵があれば世間は贋作と呼ぶだろう。ただそれで生計をなしていたか、そこには触れられないので分からない。
『海の沈黙』と題しながら既にその絵はこの世にない。しかしそれは確かに存在していた。美がそこにあった。それでいいではないかと問われている気がする。
津山が一度だけ行なった個展の絵は全て風が海に持って行った。子供の頃、海に消えた両親。二人に捧げたのではと思ったがこの映画はそれも教えてくれない。
登場人物達は多くを語らず、必要外に触れず、淡々と物語が進むのに全く苦痛を感じなかった。その理由も私には分からないが、キャスト陣がまるでその役を演じるために演劇界にいるような錯覚を感じてしまう。
津山が最後の力で遺した迎え火の絵。海を描き続けていた津山だが、その絵に水平線はない。陸からではなく海から迎え火を見る構図。
両親がこの迎え火を見つけられるように。
そう受け取った。
誰が描いたか、作ったか分かった時に金額的価値が落ちる。こればかりは仕方がない。名前に値段が付くのも現実だ。
しかし美しいものは美しい。
この映画が訴えることを本当に受け止めるには、私はまだまだ未熟のようだ。