劇場公開日 2024年11月22日

「【”美は美であり、それ以上でもそれ以下でもない。”今作は、若き頃、画を巡る騒動に巻き込まれ、”贋作”を描いて来た男の”迎え火の紅”を追求する姿を、本木雅弘さんが物凄い演技で魅せる作品である。】」海の沈黙 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【”美は美であり、それ以上でもそれ以下でもない。”今作は、若き頃、画を巡る騒動に巻き込まれ、”贋作”を描いて来た男の”迎え火の紅”を追求する姿を、本木雅弘さんが物凄い演技で魅せる作品である。】

2024年11月24日
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鑑賞方法:映画館

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■世界的油絵画家である田村(石坂浩二)が、自分の展覧会である画にオーレオリンが使われ、波のタッチも違う事に気付き贋作だとマスコミに公表するところから、ミステリータッチで始まる。
 美術館長の男(荻原聖人)は、自死するがその遺書には”私は、贋作とされた作品は三億に値するモノと信じています。”と記していた。
 場は北海道に移る。飲み屋を営んでいた牡丹(清水美沙)は”ある男”から多額の手切れ金を貰うが突き返し、”ある男”が見つけた自分の次の”キャンバス”となったあざみ(菅野恵)とバーで会い、”あんなに優しく抱いてくれる男はいないわよ。”と笑顔で言い、カクテルを飲み干し、自死する。水中から引き揚げられた、彼女の全身には鮮やかな刺青があった。
 そして、田村の妻安奈(小泉今日子)は、”贋作”の凄さを知り、且つての恋人である津山竜次(本木雅弘)を探し出し、北海道に会いに来るのである。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・冒頭の安奈が、占い師に”貴方には、遠い所に想い人が居る。”と言われるシーンから、物語はミステリータッチで進む。
 二人の自死事件が描かれる中、且つて恩師の絵の上に自身の「海の沈黙」を描き、田村を始めとした恩師の弟子たちにより美術界を追放された津山竜次と言う男に言及していくのである。

 ー 因みに恩師の絵の上に自作の絵を描いたと言えば、洋画家の中川一政が師事していた岡本一平の絵の上に自作を書いた、後年明らかになった出来事を思い出す。
 その時の岡本一平の言葉が、彼の器の大きさを感じさせる。
 ”自分より優れていたら、仕方がない。何も言えない。”
 今作の、田村の対応との違いを感じたモノである。
 あと、加藤唐九郎が起こした「永仁の壺事件」も、少し思い出したな。ー

・津山は、贋作を制作する傍ら、刺青師としても裏で技を磨いていた。その相手が牡丹である。それにしても、劇中での全身刺青の牡丹を演じた清水美沙さんの身体は、美しかった。
 清水さんと本木さんは「シコふんじゃった」で共演していた事を思い出す。清水さん、不老の人であるなあ、と思ったよ。

・津山が、自分の作品を”贋作”とは言わないのが、印象的である。”少し、手を入れて画の質を上げてやっただけだよ。”
 この言葉を、津山の番頭である”ある男”(中井貴一)は、田村に対し”お前の絵に、筆を入れたモノを観た時に、お前は負けたと思っただろう!”と厳しい口調で言うシーンも印象的である。ぼそぼそと”あの波の描き方は、私には出来ない・・。”と負けを認める田村の姿。
 だが、田村は且つて津山を美術界から放逐した人物である。それが、”ある男”には許せなかったのであろう。

■この作品の白眉のシーンであり、且つ津山を演じる本木雅弘さんの鬼気迫る演技に圧倒されたシーン。
ー 海で遭難した父の目印になる、迎え火を海岸で炊いている画を書くシーンである。肺を患う津山はキャンバスに鮮血を吐きながら、ペインティングナイフで激しく油絵の具を切るように、叩きつけるように塗って行く姿は、物凄かった。
 役作りだろうか、げっそりと頬がこけた表情で、激しく咳をしながらキャンバスに立ち向かうシーンは、本当に凄かったと思う。ー

<そして、病に斃れた津山は、わざわざ北海道まで来た安奈が作った蝋燭の炎が燃える中、大作である”迎え火”の絵を仕上げ、”漸く、出来た・・。”と言って事切れて、”ある男”の胸に抱かれるのである。
 今作は、若き頃、画を巡る騒動に巻き込まれ、贋作を書いて来た男の”迎え火の紅”を追求する姿を、本木雅弘さんが物凄い演技で魅せる作品なのである。>

NOBU
Mさんのコメント
2024年11月25日

確かに本木さんを見せる作品でしたね。

M