劇場公開日 2025年5月9日

「デカダン満載の白昼夢」クィア QUEER 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5デカダン満載の白昼夢

2025年5月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「007」シリーズのジェームズ・ボンドがハマり役だったダニエル・クレイグが、クィア役で登場する異色作でした。原作は1950年代のアメリカ文学界において異彩を放ったビートニク文学の代表格であるウィリアム・バロウズの同名小説。同小説は、バロウズの自叙伝的小説とのことで、本作の前半はバロウズが実際に過ごしたメキシコシティを舞台に、主人公・リーの放蕩というか異常な好色を描く展開となり、後半は南米に未知の植物・ヤヘを探しに行く冒険物語となっていました。

とにかく衝撃的だったのは、あの”ジェームズ・ボンド”が男色とドラッグに溺れる様。別に男色だろうと女色だろうと構わないのだけど、昼間からバーに出掛けて好みの男子を物色し、直ぐにベッドインしようとするリーの行動には、唖然とせざるを得ませんでした。
そんな衝撃はさて置いて、各種調査によると、地域により差はあるようですが、概ね全人口の1割くらいがLGBTQ+なんだそうです。昨今LGBTQ+の人達の人権にスポットが当てられ、それをテーマにした映画も陸続と創られていますが、本作の原作は70年も前の話であり、実は普遍的なテーマでもあるんだということを再認識させられました。
また、本作の描き方から察するに、1950年代のメキシコシティというのは、恐らくはアメリカのあぶれ者や放蕩者が押しかけて、好き放題やってたんだろうと想像されるところが非常に興味深いところでした。

話を本作に戻すと、運命の人ユージーン(ドリュー・スターキー)に出会うリー。彼はいつも年上の女性とチェスをしており、一見クィアではないようでいて、リーの色目に呼応したりもする。で、そういう関係になる2人でしたが、ここで気付いたのがリーの好色の動機らしきもの。それはユージーンの見た目がスラっとしている2枚目であり、恐らくは若い頃のリーの姿にソックリだったのではないかと想像できることから、リーの好色は実は自己愛の発露だったんじゃないかということです。物語が後半になり、ドラッグにもハマっていることが判明したリーですが、これなども自己愛から来る自己防衛のためにクスリから離れられなくなったんじゃないかと解釈した次第ですが、勿論本当かどうかは定かではありません。
テレパシーの能力が手に入れられるという植物・ヤヘを、エクアドルのジャングルまで探しに行くというのも、自分と他人の壁を乗り越えることで、他人から攻撃されないことを目指したんじゃないかと思ったところです。ただヤヘ自体は、他人との壁を乗り越えるのではなく、自分の真の姿を鏡に映す効果があるものだったので、リーの夢は実現せず、同一化しようとしたユージーンも自ら抹殺してしまうことになるのは皮肉でした。
因みにバロウズ本人も、メキシコシティで誤って”女性”の妻(変な言葉やな)を射殺してしまったそうで、ユージーンを射殺するシーンはまさにこの体験を写したもののようですね。

以上、好色にドラッグにとデカダン満載の白昼夢のような作品でしたが、ダニエル・クレイグの全力の演技は観るべきものがありました。

そんな訳で、本作の評価は★3.6とします。

鶏
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