劇場公開日 2025年2月8日

「実験的アート映画の手法で、チリの過去と今を見つめ直す試み」ハイパーボリア人 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5実験的アート映画の手法で、チリの過去と今を見つめ直す試み

2025年2月10日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

2023年に日本公開されたチリ発のストップモーションアニメ映画「オオカミの家」を興味深く鑑賞できた方なら、クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ監督コンビの長編第2作「ハイパーボリア人」の独特な世界観や作風を楽しめる可能性は大いにある。もし前作を未見であったり、自分に合わない感じを受けた方なら、予告編などの事前情報をチェックしてから鑑賞するかどうかを判断したほうがいいだろう。

虚実入り混じったストーリーだが、序盤で語られる「ハイパーボリア人」の元の映像素材が盗まれて行方不明になった、というのは実話のようだ。それで諦めないどころか、新たな創作スタイルで作り直すのが監督コンビの見上げたところ。主人公で語り手の女優アントーニア・ギーセンに等身大の操り人形を相手に芝居をさせたり、飛び出す絵本や動く紙芝居を大きくしたような質感と動作のセットとストップモーションアニメを組み合わせるなどして、映画とインスタレーションとパフォーミングアートを融合させた実験的作品に仕上がっている。

ストーリーの理解に役立つ予備知識を仕入れたい向きには、チリの元外交官でヒトラーを崇拝したミゲル・セラーノについてネット検索などで調べておくのがおすすめ。Wikipediaでは、日本語版の項目「超教義的ナチズム」の中で短く紹介されているほか、英語版の「Miguel Serrano」の項でその生涯や思想が詳しく説明されている。

一義的にはチリの過去と今を見つめ直す試みだろうが、ユニークな抽象化の手法によって他国の観客の興味や想像をかき立てる普遍性を獲得しているように思う。

高森 郁哉