劇場公開日 2007年2月24日

ボビー : 映画評論・批評

2007年2月20日更新

2007年2月24日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー

E・エステベス監督による、ある時代のアメリカへの挽歌

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1968年当時のアメリカは、泥沼化したベトナム戦争や人種差別問題をめぐって国論がまっぷたつに割れる危機的状況にあった。そんななか、故ケネディ大統領の弟ロバート(ボビー)が次期大統領選に名乗りをあげ、そのリベラルな主張とともにアメリカを再び一つにする希望の星として人気と期待を集める。ところが、そのボビーも6月15日、兄や2カ月前のキング牧師同様、凶弾に倒れ、志半ばにして42歳の若さで命を落とす……。

本作は、事件の真相を探求する「JFK」のような映画ではなく、偉人の生涯を描く伝記映画でもない。事件当日、現場になったホテルに集う多種多様な境遇の下に生きる普通の人々の行動や心の動きを丹念に追いかけ、その夜の暗殺現場に彼らを集結させるスタイルをとる。僕らはその場で何が起こるかを知っている。だけど、さまざまな苦しみや喜びに直面しながらその場に生きる人々には想像もつかない。そのことが映画に緊張感を与え、当時における事件の衝撃を僕らにまざまざと伝えてくれるのだ。一つの場所に集う登場人物たちを点描する本作での手法は、1932年の名作映画の題から“グランド・ホテル形式”と呼ばれる。俳優でもあるエミリオ・エステベス監督は、かなりの映画マニアぶりを発揮させつつ本作をある時代のアメリカへの挽歌へと仕立て上げることに見事に成功した。たぶん当時のアメリカにとって1968年6月15日とは、自分たちが信じる世界の崩壊に直面せざるをえなかった点で、2001年9月11日にも匹敵する重要な日付となったのだ。

北小路隆志

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