「神経で繋がる三角関係」ゆきてかへらぬ 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
神経で繋がる三角関係
「海街diary」とかNetflix版の「阿修羅のごとく」などで、個人的には妹キャラが定着している広瀬すずが、主演として妖艶な演技を魅せるらしいと聞いて期待して鑑賞しました。
物語は大正末期から昭和初期にかけて活躍した詩人・中原中也(木戸大聖)とその恋人にして女優の長谷川泰子(広瀬すず)、そしてその2人との間で、文字通りの三角関係を結ぶことになる文芸評論家・小林秀雄(岡田将生)の3人のお話でした。中原中也は、名前こそ知っているものの、どんな顔なのかあまり認識していなかったのですが、今回改めて写真を見たら、木戸中原の再現度はかなりのもの。残念ながら喋り方や仕草がどれだけ似ているのかは判別出来ませんが、格好はまさに中原中也そのものでした。一方で小林秀雄に関しては、亡くなったのは1983年であり、私が子供の頃まで存命だったので、顔も知っていました。ただ当時は既にお年を召していたので、本作中の岡田将生が、若い頃の小林秀雄の見た目が似ていたのかは、何とも言えないところ。ただ長谷川泰子と情交を結んだ直後に、彼女を評論しだしたシーンは、不世出の評論家である彼らしい話であり、本作で最も面白い場面でした。まあ本当にこんなことをしたのかは知りませんが。いずれにしても、情熱の中原と理性の小林の対称的な2人の関係性こそが、実は本作最大の見せ場だったように思われました。
一方でお目当てだった広瀬すずですが、「私たち、神経と神経で繋がろうとしましたの」という予告編でも登場したセリフの通り、表面的な肉体美というよりも、全神経を集中させた渾身の演技で、内から湧き出るような美しさを表現していたように思いました。どんな役をやらせても、彼女じゃなければあり得ないと思わせてくれる演技は、いつもながら感心することしきり。今後もこうした役柄を演じ、ファンを魅了して貰いたいと切に感じたところでした。
以上のように、役者陣は良かったのですが、作品全体の質感とか漂う雰囲気というものについては、ちょっと不満が残りました。今から100年前後昔の話であり、建物や街並みなどはそれなりに丁寧な作り込みがされていたように感じたものの、画面から感じられる空気感が軽いという気がしました。譬えるなら、NHKの朝の連ドラっぽい雰囲気と言ったらいいのでしょうか。この辺りは観る人それぞれで感じ方は大いに異なるものと思いますが、観客を1世紀前にタイムスリップさせてくれるような雰囲気があれば、もっとのめり込める作品になったのではないかなと感じました。
そんな訳で、本作の評価は★3.6とします。