劇場公開日 2024年12月30日

「珠玉の料理の一皿ひとさら自体が匂い立つようなカメラワークで、巧みに美しく目に訴えかける場面にあります。しかもスピーディでスタイリッシュ!」グランメゾン・パリ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0珠玉の料理の一皿ひとさら自体が匂い立つようなカメラワークで、巧みに美しく目に訴えかける場面にあります。しかもスピーディでスタイリッシュ!

2025年1月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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木村拓哉主演による2019年放送のテレビドラマ「グランメゾン東京」の続編となる映画版。

●ストーリー
 レストラン「グランメゾン東京」が日本で三つ星を獲得してから時が過ぎました。尾花夏樹(木村拓哉)と早見倫子(鈴木京香)は新たな挑戦の地として、フランス料理の本場パリを選び、「グランメゾン・パリ」をオープンします。名だたる巨匠たちがしのぎを削る本場フランスで、フランス料理で“三つ星”を獲得することは、尾花にとっての悲願でした。アジア人初となるミシュラン三つ星獲得を目指して奮闘することに。しかし、異国の地での挑戦は簡単ではありません。異国の地のシェフにとっては満足のいく食材を手に入れることすら難しかったのいです。
 フランス・パリで『グランメゾン・パリ』をオープンして数年。京野陸太郎(沢村一樹)が尾花にミシュランの審査の結果を告げます。今年も2つ星でした。がっくりとうなだれる尾花。
 満足のいく成果を上げられない状況が続く中、有名料理人たちを呼んでのガラディナーでグランメゾン・パリチームが料理を提供することになります。料理評論家のリンダ(冨永愛)もきていました。このガラディナーでの料理が不評であったことが原因で、尾花は、店舗の大家でもあるかつての師ルイ・ブランカンと「次のミシュランで三つ星を獲れなければ、店を辞めフランスから出ていく」という約束をしてしまいます。それを知った従業員には退職者もでて店は風前の灯火になるのです。

●解説
 正月休みが明けた週末の映画動員ランキング(1月10~12日、興行通信社調べ)は、1位から順に「グランメゾン・パリ」「はたらく細胞」「劇映画 孤独のグルメ」と邦画が独占。1、3位は「食べる」作品、2位も体内の細胞を擬人化して飲食や腸活も登場する「食」つながり。国際情勢がキナ臭いからこそ、大地の恵みをありがたく血肉にする尊さに共感が広がっているのでしょうか。

 映画の冒頭では、「グランメゾン東京」が三つ星を獲得した後、尾花と倫子がフランスへと渡り新店舗「グランメゾン・パリ」をオープンするところから始まります。
 そこで気になるのは、置いていった「グランメゾン東京」は誰が引き継いだかということですが、これは12月に放送されたスペシャルドラマをご覧になっていただければ、詳しく描かれます。尾花が抜けて、コロナで経営危機となった「グランメゾン東京」のシェフとなったのは、スーシェフの平古祥平(玉森裕太)でした。一時はライバル店のシェフになっていた尾花との料理対決まで発展しました。平古の成長が描かれたスペシャルドラマ版ですが、劇場版になって出番はぐっと減ってしまいます。
 本当なら、パリで尾花たちと一緒に三つ星に挑戦してほしかったけれど一国一城の主になったのだから、自分も星を目指して、きっと東京から応援していることでしょう。

●料理のシーンに注目
 道は険しいほど、チーム内の葛藤や結束に生まれ、スポ根的な展開のドラマはわかりやすいところ。しかし、本作の妙味はキャスティングもさることながら、珠玉の料理の一皿ひとさら自体が匂い立つようなカメラワークで、巧みに美しく目に訴えかける場面にあります。しかもスピーディでスタイリッシュ!
 けれども三つ星にまったく手が届かず、ガラディナーでも居並ぶバリの料理人から不興を囲ってしまった尾花は焦りまくり、料理の方針も本格フランス料理を目指したり、創作料理を試したり、二転三転ぶり。最後の「和の匂い」を効かせたアレンジメニューに辿りつくまでの変遷が、出される尾花の料理によって雄弁に語られました。
 この紆余曲折はおそらく料理を監修した「Restaurant KEI」の小林圭シェフが味わった三つ星獲得までの苦悩の歴史をなぞっているものと思われます。
 実際に「Restaurant KEI」でも提供されている至高の料理を披露するラストは、腹がグーグー鳴りっぱなしになりました。

●木村拓哉のブレない、デレない演技にも注目
 三つ星が採れず、店の退去を打診された尾花は、前作までとは打って変わって、焦りまくりスタッフを罵倒しはじめます。とうとう倫子シェフまでクビにする始末。
 高飛車で大人げなり尾花にうんざりすることでしょう。これまで抱いてきた尾花のイメージがガラリと変わって、「グランメゾン・パリ」の崩壊に向けて独り相撲をとるのです。但しが、それがむしろ後半部分のスパイスに。年末のスペシャルドラマも同様ですが、尾花が一旦は憎まれ役になるというのが、本作の基本ラインになっていて思います。
 そんなタカピーで倫子シェフを突き飛ばす尾花を木村拓哉が好演しています。たとえ一人きりになっても、誰の応援がなくなっても、ひとりでやりきろうとする強い意志を演じさせたら、やはりキムタクがどハマりするのではないでしょうか。
 そして尾花の孤立があり、おまけにお店が火事になるというピンチも跳ね返す、尾花の三つ星に掛ける強い意志が、ラストの感動につながっていくことことになるのです。

 「ラストマイル」で物流の荷物一つひとつに人々の喜怒哀楽を投影した塚原あゆ子監督が、今度は、食べ物に魂を吹き込みました。
 ちなみに異国の地のシェフが個人店で三つ星を獲ることは奇跡と言っても過言ではなく、2024年と5年経った今でも、ミシュランガイド・フランスでのアジア人店舗の三つ星は「Restaurant KEI」1店舗のみです。

●最後にひと言
 「グランメゾン・パリ」の大家でもある尾花のかつての師ルイ・ブランカンのモデルは、「gaku」の丹後学がかつて修行した3つ星レストラン「ランブロワジー」のオーナーシェフであるベルナール=パコー氏だという人もいます。パコーシェフの下で「ランブロワジー」の料理を統括するのは日本人だったりすることなど、尾花のモデルとも言われても不思議ではありません。
 でも先日公開されたドキュメンタリー映画『幸福のレストラン 三つ星トロワグロ』を見ていたわたしは、このミシュラシ三つ星に輝く仏老舗「トロワグロ」のオーナーシェフ3代目のミッシェルこそルイ・ブランカンではないかと思いました。息子の4代目のセザールも店を持っているという共通点もあり、何よりもミッシェルは、柔道家でもあり、何度も来日経験があります。そのため周りから日本かぶれと揶揄されたこともあったくらいの親日家であり、その点でルイ・ブランカンのモデルに相応しい存在だと思うのです。
 役名もわからないほど本作ではルイ・ブランカンの出番は少ないものの、迷える尾花に「和」テイストのヒントをもたらし、三つ星に導く重要な役割を担いました。

流山の小地蔵