「2024年 邦画No.1★」グランメゾン・パリ ssさんの映画レビュー(感想・評価)
2024年 邦画No.1★
ドラマ「グランメゾン・東京」の続編、映画「グランメゾン・パリ」を鑑賞。
続編としても素晴らしいが、ひとつの"映画"として、見たとしても、近年稀にみる秀逸な日本映画だったのではないだろうか。
今年は、私自身、例年よりも多くの邦画を鑑賞してきたが、この作品は、日本アカデミー賞にノミネートされると確信している。
正直、鑑賞前は、ドラマあがりの映画かつ製作陣もドラマ出身ということで、いつものスペシャルドラマのような映画だろう、と思い、さほど期待していなかった。(最近だと、ラストマイルがスペシャルドラマのような映画であり、がっかりしてしまった。詳細は別サイトで。)
しかし、今回の脚本は、一言でいうと、"大人なビターな物語"である。魅力的なスローテンポな物語であり、まるで、2時間のフランス料理のフルコースを味わっている感覚に陥る。終盤になるにつれ、まだこの世界観に浸りたいという気持ちさえ生まれてくる。倍速視聴やアップテンポな物語が流行りつつある世の中であるが、やはり、私はこのような構成が大好物である。(逆に言うと、ドラマ版のようなアップテンポを期待していくと少々肩透かしを食らうかもしれない。また、倍速視聴やアップテンポのテトフリドラマなどに慣れている人にも少々退屈に感じるかもしれない。)
振り返ると、ドラマ版では"見たことのない料理"を焦点としており、それと同時に魅力的な人間模様の物語を絡め、視聴者を虜にしてきた。今回の映画でも、もちろん、見たことのない魅力的な料理が多く登場する。料理を調理する演出に関しても視聴者を飽きさせない手法をとっており、このシーンを見るだけでも映画館に足を運ぶ価値はあるだろう。
しかし、それに加え、本作「グランメゾン・パリ」は、友情物語となっている。言い換えるならば、ジャンプ作品のような物語というのだろうか。似たストーリの作品でいうと、Netflixドラマの「クイーンズ・ギャンビット」を彷彿とさせる。
前半は、パリで三ツ星をとろうとするあまり、グランメゾン・パリにいる従業員に対し、「俺の言う通りにしろ」と強く叱り、周りから孤立していき、空回りしていく尾花夏樹が描かれる。しかし、ドラマ版で描かれたように、東京で三ツ星を獲得した尾花を周りの人間は見捨てない。後半、周りの人々によって、忘れかけていたパリ料理の本質に尾花は気づき、グランメゾン・パリにいる多国籍な従業員のアイディアを積極的に使用して、チームグランメゾン・パリとして、ディナーのコースを提供した。その結果、パリで三ツ星を獲得することができた。王道中の王道ストーリーではあるが、それが良い。(それで良い。)友情物語に弱い筆者にとって、泣けるシーンがあまりに多くあった。スペシャルドラマの撮影からの映画撮影とあってか、木村拓哉含め出演陣全員が、"仕上がって"おり、演技じゃない、まるで、ドキュメンタリフィルムを鑑賞しているような錯覚に陥る演技も本作の見どころだろう。
料理づくりとは、一見するとひとりだけが作るように見えるが、本質は違う。多くの人々が協力し、知恵やアイディアを共有し、お客様を圧倒させるような料理、いや作品を"チーム"で提供する。これは、料理以外でも言えるだろう。ひとりで何かを成し遂げようすると、どうしてもそれには限界がある。不安なとき、心配なときは、ひとりだけで抱え込まず、ときには、だれかに相談し、協力を求める。そうすることで、自分が思いもつかなかったようなアイディアが生まれるしもしれない。コロナにより、社会全体が閉鎖的で暗くなりつつあり、集団よりも"個"を重視しつつある世の中に対して、みんなで協力しようと訴えかけている作品のようにも思えてくる。また、このような物語を主演・「木村拓哉」の映画でつくれたことも、今後、世の中に大きな影響をもたらすに違いない。教育現場では、コロナなどで、文化祭・体育祭を経験できず、それらのイベントで学ぶはずだった、"集団で何かを成し遂げる経験"をすることができなかった世代が存在する。他にもコロナによる影響は多くあるだろう。今の日本人が忘れかけている、個人ではなく集団で何かを成し遂げることの重要さを改めて認識させる作品となっているように、筆者は思う。