「三つ星料理を食べたくなる!」グランメゾン・パリ おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
三つ星料理を食べたくなる!
この一年の心の汚れを洗い流して、新たな気持ちで新年を迎えようと、毎年大晦日には感動作を鑑賞するようにしています。ということで、2024年の締めの1本に選んだのが本作です。本当は公開初日に観たかったのですが、あえて1日待って本日鑑賞してきました。
ストーリーは、日本でミシュラン三つ星を獲得し、今度は本場フランスでアジア人初の三つ星獲得を目指してレストラン「グランメゾン・パリ」をオープンしたシェフ・尾花夏樹と早見倫子が、満足のいく食材を仕入れることができず苦戦し、大切なガラディナーでも失態を演じてしまい、ついには店を任せたオーナーから立ち退きを迫られる中、自身を見つめ直した尾花が、仲間とともに三つ星獲得の最後のチャンスに挑むというもの。
本作単体でもストーリーは十分に理解できるものの、倫子や京野や相沢らとの絆、背景となる「グランメゾン東京」での奮闘ぶりを知っているかどうかで、受ける印象は大きく変わると思います。さらには、公開前日に放送されたスペシャルドラマは、テレビドラマと本作をつなぐ重要な位置付けであったため、本当ならこれも事前に押さえておきたいところです。それらを全て受けて、初めて本作の本来の魅力を味わえるのだと思います。まさにコース料理のメインのような味わいです。
端的に言えば、世界の頂点を目指す天才が、その傲慢ぶりから孤立していくが、一人の力では乗り越えられない壁にぶつかり、自分を省みて仲間とともに栄光をつかむという鉄板かつベタなストーリーです。ある意味、テレビドラマと同じですが、観客はそれを期待して観にきているのでこれでいいと思います。
どんなに優れたセンスと卓越した技術をもった天才でも、一人でできることには限界があります。限界を超えるためには、仲間の協力が不可欠です。それに気づき、謙虚に協力を請う尾花の姿と、それを粘り強く待ち続けたスタッフの姿に涙がこぼれます。尾花がスタッフ一人一人の実力を見抜き、心の底では絶大な信頼を寄せていたように、スタッフの誰もが尾花の料理に惚れ、その腕前に自身の夢も託していたのでしょう。
クライマックスは、グランメゾン東京のかつての同僚たちからのバックアップも受け、グランメゾン・パリのスタッフが一丸となり、至高のフルコースを完成させていきます。傲慢だった尾花が周囲に頭を下げ、倫子や京野や相沢もそれぞれのアプローチでフランス人の懐に飛び込み、互いを隔てる心の垣根を越えたとき、料理もまた国境を越えることができたのだと思います。そうしてテーブルに運ばれた料理の味の奥深さは、私のようなバカ舌にはわかろうはずもないのですが、真剣勝負の調理工程、ホールスタッフの連携、見た目の美しさ、リンダの批評から、豊かで繊細な味わいを想像し、まるでフルコースを味わったような気分に浸れます。
本作はフランスでのロケをふんだんに取り入れ、実際にアジア人初のフランス三つ星を獲得した小林シェフが料理監修を担当したそうです。そうした本物へのこだわりが、スクリーン越しに本場の空気を届けているように感じます。とりわけ、フランスで三つ星を獲ることの厳しさ、そこにかける情熱、それを守るプレッシャーと誇りは、ひりひりするほど伝わってきます。それはシェフや店だけのものではなく、店に食材を卸す人々の中にもあるものだと強く感じます。だからこそ、ミシュランの星には価値と権威があるのでしょう。死ぬまでに一度は三つ星の味を堪能してみたいものです。
2024年を締めくくるにふさわしい素敵な作品に出会うことができ、2025年も新たな気持ちで頑張れそうです。歩む道は違えど、私も真摯に仕事に向き合い、謙虚な気持ちで同僚と励んでいきたいと思います。
主演は木村拓哉さんで、相変わらずこの手の役はピッタリです。脇を固めるのは、鈴木京香さん、沢村一樹さん、及川光博さん、オク・テギョンさん、正門良規さん、冨永愛さんら。鈴木さん、沢村さん、及川さんが、役の上でも演技の上でも、見事なサポートで魅せています。