「この映画の是非とは?」室井慎次 生き続ける者 komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
この映画の是非とは?
(完全ネタバレなので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
今作は前作の映画『室井慎次 敗れざる者』の後編に当たりますが、多くの人が「踊る大捜査線」シリーズの作品として観たと思われます。
即ち、何か刑事事件が起こり、事件解決のために主人公らが活躍するストーリーを期待して映画を観たと思うのです。
しかし今作を観て驚いたのですが、実は、今回の前編後編の映画は【事件解決が中心の映画ではなかった!】のです。
(殺人事件の解決は、結局、映画の傍流の話で、映画の中心の話ではありませんでした‥)
そうなると、「踊る大捜査線」シリーズの映画だと思って観た1観客の私としては、今回の前編後編を通して、映画としての正当性はあったのかと考え、「踊る大捜査線」シリーズの事件解決映画が期待された所からいえば、正当性は残念ながら「否」となると思われました。
では、「踊る大捜査線」シリーズではなかったと考えた時の、この映画の正当性はどうだったのかとなるのですが、その場合でも1観客の私としては正当性は「否」だったと思われました。
事件解決映画で無かったとすると、今回の前編後編の映画は、犯罪の被害者・加害者の子供を引き取った主人公・室井慎次(柳葉敏郎さん)が、その子供たち(森貴仁(齋藤潤さん)、日向杏(福本莉子さん)、柳町凛久(前山くうがさん・前山こうがさん))と暮らし、その子供たち3人(あるいは秋田の田舎町の人達)との関係が映画のストーリーの中心だったことになります。
すると、犯罪の被害者・加害者の子供との関係という、割と重い題材になるのですが、前作で描かれた母が殺された森貴仁との関係や、猟奇殺人犯の日向真奈美(小泉今日子さん)の娘である日向杏との関係や、柳町凛久やその父で出所して来た柳町明楽(加藤浩次さん)との関係など、その描かれ方が(しっかり描かれているように見えて)どうもそれぞれ深さが足りないように感じたのです。
その理由の大部分が、映画を通して主人公・室井慎次が、心情や考えの変化をほぼしない所にあると思われました。
主人公・室井慎次は、青島刑事(織田裕二さん)との約束であった警察組織改革が出来なかった後悔を持ってはいますが、一方でその考えに留まり、そこから心情や考えを変化させることは映画を通して伝わっては来ませんでした。
なので、犯罪の被害者・加害者の子供である森貴仁や日向杏や柳町凛久に対する時だけでなく、主人公・室井慎次はあらゆる場面で迷ったり考えが変わったりほぼしないのです。
つまり、今回の前編後編の映画は、変わらない主人公・室井慎次の、周りの人々の方が主人公・室井慎次に影響され変わって行くという構成になっているのです。
となると、変わらない主人公・室井慎次は、周りに(本質的に)翻弄されないので、いくら周りと対立があっても、ドラマ性としては面白さに欠けてしまう欠点が出て来てしまいます。
また、変わらない主人公・室井慎次では、彼に影響されて変わって行く周りの人物達が、主人公・室井慎次にとって都合良く、あるいは主人公・室井慎次を引き立たせる役割として存在しているように見えてしまいます。
これが、前編『室井慎次 敗れざる者』と、今作の後編『室井慎次 生き続ける者』が、それぞれ大切な題材を扱いながらの、深さを感じない食い足りない要因だったと、僭越ながら思われました。
仮に事件解決が中心に描かれ、主人公・室井慎次が犯人などに翻弄される映画であれば、もっと面白い映画になっていたのでは、と思われました。
(もちろん、事件解決が中心の映画で無くても、室井慎次が周りにもっと翻弄され考えが変化して行く人物として描かれていれば、もっと面白い映画になったと思われます。)
この映画で1番、観客がわき立ったのは、おそらく今作のラストカットだったと思われます。
しかしその事は逆に、今回の前編後編の映画で翻弄される主人公を見たかったという、欠点を現わしているように感じました。
一方で熱演だったとは思われる柳葉敏郎さんをはじめ、福本莉子さん齋藤潤さんなど、魅力的な演技を見せていた俳優陣が数多く出演していただけに、惜しまれる今回の前編後編だったと、僭越ながら思われました。