「現実とは、夢とは、妄想とは」雨の中の慾情 Equinoxさんの映画レビュー(感想・評価)
現実とは、夢とは、妄想とは
つげ義春先生の漫画は若い頃に何作か読んだ程度なのでいわゆるニワカの感想になるかもしれませんがご容赦ください。
この映画はストーリーラインが幾重にも絡まって何が現実なのかわからない多重の入れ子構造になっていて結局のところ何処までが現実なのかわかりません。恐らく敢えてそう作ってあるのだと思いますが、不思議な感覚にさせてくれます。休日の朝に温い布団の中でなんだかわからない甘美な夢を見ている様な、高熱にうなされた時の悪夢の様な、それらが綯い交ぜになった様な感覚。それと同時に映画を観ている今の自分は本当の自分なのだろうか、自分は正しく現実を認識できているのだろうかという恐怖も感じました。
夢の中にいる自分は自分が夢を見ていると認識が出来ないし、恐らく痴呆症の様な病気になってしまったとしてもきっとそうだと思います。それくらい実は現実って儚いものなんじゃないかという様なことを考えさせられました。
コメディなのかと思ったらミステリー仕立ての展開になったり、エロなのかと思ったらホラーになったりと様々な要素が感情をかき乱してくる感じ、何が夢で何が現実なのか、何が妄想なのかわからなくなる恐怖、そういったものがテンポよく襲ってくるという感覚は単純に映画体験としても稀有なものを与えてくれると思います。そういった体験の前にはもしかしたらストーリー解釈なんてのは蛇足なのかもしれません。
劇中随所に何処かで見た様な、つげ作品のパーツが散りばめられている様にも思えて何処かで見た様な既視感もあります。明確に出典がわかったのはねじ式くらいなのですが、他も詳しい方が観たらわかるんじゃないかと思います。
主人公もつげ義春に似た名前の漫画家ですし、複数の作品から要素を持ってきていると思われることからもつげワールドを映画化したということなのかなとも思いました。私が読んだつげ先生の作品ってあんまり”エロい”印象がなかった(性的描写がある作品はあっても作品の主軸になってない様に見える)ので、ここまで性的な表現が全面に出てくるのは果たしてつげワールドなんだろうかってのは思いました。戦争描写の苛烈さというのもちょっとテイストと合っていない様な…。その辺り、私はニワカなのでガチファンの方の感想が聞いてみたいです。