劇場公開日 2002年3月30日

「インシュリンショック療法とは…?」ビューティフル・マインド ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0インシュリンショック療法とは…?

2021年2月18日
iPhoneアプリから投稿

Netflixにて鑑賞。
ドリームワークス製作の良心的ヒューマンドラマ。
数学の天才の視界を再現したことが当時話題になっていたように思う。
ずいぶん経った今になってようやく観た。こういうことだったのね。。
探偵や学者など、頭脳の天才が出てくる作品ではその天才ぶりをいかにポップに表現するかが鍵になりがちけど、この作品はきっとエポックメイキングとなり、ある時期大層擦られたんだろうなという気がした。「シャーロック」とか観てるとそんな感じ。
というより、前半のスパイアクションパートの盛り上がりっぷり。

トップシーンからガッチリと掴まれ、15分を過ぎる頃に私は、観終わる頃にはきっと心揺さぶられる感動を味わっているのではないかという予感に襲われた。
まるで石油王と出会ったハーレクインロマンスの主人公のように「あ、落ちる…」という感覚を覚えた。
それくらい細やかな役者の演技、シナリオ、映像の見せ方、すべてに無駄がなく圧倒的な安定感。何のひっかかりもなく気づいたら没入してる。さすがは名匠、さすがドリームワークス、と言いたくもなるような、娯楽映画の教科書みたいな作品。
その予感はあながち間違ってはいなかったが。

だだラストシーン、感動しながら自分も善人になったような不思議な高揚感を覚えてることに気づいた。イヤイヤイヤ、そんな訳ないじゃん。2時間座って映画観てただけだよ?

もしかしたら、この手の映画の最大の効能は、こういう心ある物語に心動かされる自分もまた心あるっぽい人間だと確認するためにあるのかも知れないなぁ。

正直、前半部の異様な盛り上がりに比べると、着地のハードルの低さは否めない。きっと現実はこんなにビューティフルじゃない。ヒロインの現実離れした美しさがそれを示唆している。なんなら美人局じゃ、と疑ってたくらい。
想定の範囲内で最大限よくできた予定調和。だからこんな疑念を抱いてしまったのかも知れない。

そもそもインシュリンショック療法ってナニ…? 名前を聞くだけでおそろしいんですけど。昔の精神治療こええ案件はよくあるが、これでも戦後の話っていう。
そしてあれほど強烈な病態を自力で克服って…普通の人にはまずできないだろう。そんなに意志強ナツ子先生なのはやっぱり天才たるゆえんですか?

確かにこの物語はすばらしい。作り手の手腕もけなすところが見つからない。でも、そのぶんだけ危険な作品だと思える。
私は途中何度か「イミテーション・ゲーム」のラストシーンを思い浮かべてしまった。
あっちはこんなに端正じゃない、いくぶん不恰好な作品ではあったけど、あのラストだけはいつまでも忘れることができない。

これを観てすばらしい奇跡だと涙し、それっきり忘れられる立場の人はいい。しょせんは他人事。でも現在進行形で病に苦しむ人はこれを見てどう思うだろう? 手放しで感動した、勇気づけられた、と言ってくれるだろうか。
確かにそう受け止められる人もいるだろう、しかし…
そういう疑問がある限り、危険な作品であり続けると思う。

ipxqi