「フィクションという鏡を使って投影された父娘の関係性と絆」ブリーディング・ラブ はじまりの旅 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
フィクションという鏡を使って投影された父娘の関係性と絆
本作を観ながら不思議な感覚が身を貫いた。映画に大感動するわけでもなければ、物語として決してまとまりがいいわけでもない。しかし、ユアンとクララというリアルな父娘にとっては生涯忘れることのできない宝物になったはず。観る側は、本作が二人の実人生を反映しつつ、と同時に、事実そのままではないことも理解しておくべきだ。あくまでフィクショナルな役柄だからこそ彼らは(特にユアンは)安心して身を投じ、それでいて共同作業を通じて過去を俯瞰し、関係性を再構築していけた。そんな俳優にしか成しえない、特殊な通過儀礼のかたちがここにはある。それゆえストーリーを単線で観るよりも、制作背景や実人生を視野に入れながら複層的な視点で見つめるのが、本作の充実した楽しみ方と言えるのかも。思いのほか手作り感が強いが、大作映画では観られないユアンの味わいに触れられるのが嬉しい。これまた、娘だからこそ引き出せたとっておきの表情なのだ。
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