「ヴィランじゃないよヒロインだよ」夏目アラタの結婚 ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
ヴィランじゃないよヒロインだよ
もうちょっとお気楽エンタメかと思っていたら、児童虐待などの要素も絡んで想定外に重めな側面もある映画だった。
冒頭のイントロなし感がすごい。ものの5分(体感)で、児相職員アラタの名を語って凶悪殺人の被告に手紙を出した子の代わりにアラタが拘置所で彼女とご対面。ちょ待てよ。
アラタの心理は心の声でばんばん説明しながら、法廷シーンもそこそこ交えつつ話は進み、真珠が本当に殺人をしたかどうかについての真偽は二転三転する。彼女の不幸な生い立ちも徐々に見えてきて、実は無実でした、でアラタとくっつくのかな?と思いきや……
原作はほぼ未読(アプリで冒頭だけ把握)だったので、製作側の思惑通りトンデモ展開に振り回されて退屈はしなかった。
主要キャラ3人のキャスティングもよかった。柳楽優弥と中川大志は原作キャラのイメージによく合っていたし、黒島結菜はかなり頑張っていた。
サイコなピエロでたまたま連想したので例に出すと「ダークナイト」のヒース・レジャーのような憑依感はなかったが、真珠という役の難易度を考えると、あそこまでやり切ったのは素直にすごいと思う。
日本の若手女優で、ああいうレクター味のある汚れたすきっ歯の殺人犯役に手を上げて、それなりに演じる人、ゼロとは言わないけど希少なのでは?
志らくを出されたのは残念だったけど(志らくファンの方ごめんなさい)……。
アラタと真珠という人物造型には、過酷な家庭環境に置かれた子どもたちの悲劇が強く結びついている。だが、真珠はそんな自分に同情から気持ちを寄せられることを忌み嫌った。委託殺人であれ人を殺した真珠を、最後にアラタが同情抜きでそのまま受け入れたから、この物語はハッピーエンドで幕を閉じた。実はアラタは、幼い頃の真珠に通りすがりにやさしさをくれた人でもあり、真珠は最初から彼の匂いでそのことを知っていた。
という顛末で、黒島結菜のかわいい白無垢姿でめでたしめでたし……っていやいや、何か、どこかモヤるよ。
最初に真珠に手紙を書いていた卓斗くんの父親の頭部は結局どうなったんだっけ。私の見落としだったらごめんなさい。墓の中にあった頭蓋骨は確か結局真珠のストーカー(実の父親だっけ)のものって言っていたような。
それと、そもそもアラタが真珠を本気で好きになる過程に、例えば卓斗に対する気持ちとの葛藤といった引っかかるものや最初の対決姿勢を打ち崩すような大きなきっかけがなく、彼が真珠に惹かれることに納得感がなかった。バイクで真珠を迎えに来るあたりからは完全にラブストーリー面では置き去りにされた。
最初は、得体の知れない殺人犯との結婚をしてまで卓斗のために動こうとする気概があったのに、その卓斗の父親を殺した人間とくっつくのなら、物語としてもうちょっと申し開きがほしい気もした。
ここまで書いた後、原作を3巻まで読んだが、面会室でアラタや桃ちゃんに対して真珠が舌鋒鋭く仕掛ける言葉の罠には、原作では説得力と緊張感があった。映画ではこのやり取りのそこかしこを部分的に削ったようで、それによって原作の会話にある緻密さが少し損なわれたような気がする。
それと、原作では真珠の描写が時にちょっとエロティックだが、映画ではそういった描写は全面的に排除されていた。何故?
映画では、アラタが真珠に惚れる過程にリアリティを感じなかったが、原作だとちゃんと段階を踏んで気持ちが変わる描写があり、説得力があった。
映画化にあたって尺のためにどこか削るのは必然だが、これは結構削りにくい繊細な原作なのでは?(3巻までしか読んでないので、推測ですが)
ネトフリのオリジナルドラマみたいな感じでしっかり尺を取って、面会室での緊張感あるやり取りは削らずに再現し、エロティック要素もきちんと入れたバージョンも見てみたくなった。
自分も3巻まで読みましたが、映画はアラタの気持ちが分かりづらかったですね。
せめて、「愛され方が分からず、ぎこちない笑顔しかつくれない子をいとおしく思う」は入れるべきでした。
面会の緊張感も、やはり足りなかったです。