劇場公開日 2024年8月30日

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「韓国国内でさえ批判される作品は確かに見ても厳しい…。」ボストン1947 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5韓国国内でさえ批判される作品は確かに見ても厳しい…。

2024年8月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今年312本目(合計1,404本目/今月(2024年8月度)37本目)。
※ (前期)今年237本目(合計1,329本目/今月(2024年6月度)37本目)。

 実はこの映画は韓国国内ではものすごく否定的に取り上げられていて、政治的思想等とは別に近現代韓国史については相当な資料が残っているものの、それに真っ向から矛盾する内容であることで、いわゆる「告発サイト」(この映画がいかにダメか、みたいなものを証拠を出して指摘するサイト)も国内だけにとどまらず英語でも書かれているし、何ならそれを個々出して指摘する動画(youtube)もあり、確かにそれらを突き合わてみるとかなりの問題点があるんじゃないか…と思います。もちろん、日本から見て、「日帝」の表現がどうだの「東海」の表現がどうだのといったことではなく(それは韓国の映画としてそういった表現は十分理解できる)、そもそも論として「なんでここまでこうしたの?」というような解釈が多く、しかも根本から否定するような部分の改変になっているのが厳しいところです。

 それらを否定するともはや作品から色々消されて「無」しか残らないために「無」をみていることになってしまうところ、確かに近現代の韓国史については、例えば朝鮮戦争や「北の存在」、あるいは1990年頃まで民主化がされなかったことによる色々な政治思想にかかわる事件の扱い(「南山の部長たち」など。一つの説と断ってはいるが、ご遺族の配慮か何もかも登場人物が架空)や、あるいは済州島事件、麗水順天事件他確かに「配慮が必要だろう」という映画は近現代韓国史にはあります。もちろん日本でも、つい最近の最高裁判例が示した強制不妊手術の歴史やあるいはハンセン病への施策など一般的に「眼をつぶりたくなる」ことがないわけではないので、そこはまぁ「お互いそう」とは言えますが、この映画は「どうでもいい部分で改変していて無茶苦茶」という部分になります。

 個々気になる点は以下の通りです。
なお、評価にあたっては、上記の「告発サイト」ほか、KBS(韓国の国営放送。NHKにおよそ相当)の映画解説、海外の評価サイトなども加味した上でネット上で読める範囲で論文等で整合性を確かめたもの、大阪市立中央図書館等で確認が取れたものになります。

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 (減点0.5/太極旗をつけてマラソンを走ることについての論争は実際にあったか)

 まずこの問題です。確かに当時のアメリカ軍は韓国を事実上支配していたため、「純粋な意味で」韓国を象徴する太極旗「だけ」を着用することにはひと悶着ありました。ただ、政治思想とスポーツ参加は別というのが当時のアメリカの考えで、アメリカ国旗と太極旗を組み合わせたデザインで最初から用意していたほか(このことは当時の写真が複数存在し、「告発サイト」でも確認が取れる)、アメリカもこれを許容していたのです(アメリカは日本のとった方法に対して、アメリカが支配していた中でも「日本とは違って民族の象徴となるものを着用することは禁止しない」という立場であったし、またその後の朝鮮戦争に備えてあえて着用を許すことでソ連・中国(当時)をけん制する狙いがあった)。

 (減点0.5/保証金は誰が出したのか)

 映画内ではアメリカ政府の協力が得られず、やむを得ず国内から募金が集まりという展開になっています。確かに国内(韓国の成立は1948年ですが、便宜的に使用。以下同じ)での協力はありましたが、アメリカの統制下にあった当時でも「国内の募金他では無理だろう」ということは軍幹部は知っており、また、「韓国が(条件つきとはいえ)参加するなら保証金くらい安いもの」ということで統治下にあった当時も韓国に友好的だったアメリカ軍の人たちが大半を支給しており、それを利用した形になっています(こちらは公文書が現在でも残っていることが告発サイトから示されている)。

 (減点0.3/ギリシャ国旗について)

 マラソンの参加国は多数にわたりますが、映画内で重要なファクターとなるギリシャ籍の当時の国旗の扱いも変だったという検証があります。具体的には当時、ギリシャ国旗は民間が使えるものと軍隊等が専ら使用できるものと2つ分かれていた(1980年代ごろまで。現在は統一されている)ところ、映画内で登場する国旗が後者(軍隊のもの)であることがこれもまた有志による「告発サイト」で示されていて、この点調べると確かにそうであることがわかります。

 (減点0.2/「順天(スンチョン)でマラソン大会を開き…」)

 エンディングロール直前のいわゆる「後日談」にあたる部分ですね。
この部分は事実なのですが(順天で毎年、功績者をたたえるマラソンはコロナ下等を除けば開催されています)、日本国内で見る場合、ソウルしか実質出ない状態で「のちに順天で…」といってもわかる方は少ないのではといったところです。

 ※ この点は、翌年(1948年)に麗水順天事件で順天はその抗争の真っ只中にあり、実際にマラソン大会が開けるような状態だったのかという疑問点はある程度韓国史を知っていればわく疑問ですが、実際に毎年開催されている(コロナ事情のみ中止されている)ようです。
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 以上のようなことまで考えると、とても「史実通り」とはいえず(実際、韓国国内でさえ「やりすぎ」という反対運動(上映撤回の反対運動)が起きているのは事実で、この点は「史実に基づきますが細部はフィクションです」だけでは済まないので(アメリカを巻き込むなど、国際協調という観点で疑問が残る)、ちょっとどうだったか…といったところです。

yukispica