「お仕事映画+健全ラブコメ」フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン のむさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5お仕事映画+健全ラブコメ

2024年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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 何かの達成のために数人が力を合わせて頑張るという「お仕事映画」はついつい見てしまうジャンルだ。現実の仕事はもちろん一人でできるわけではなく、名もない様々な人びとが力を合わせて大きなプロジェクトを成功させているはずだ。その名もなき人々に、自然とスポットが当たって、キャラクターの魅力が引き出されるのがこのジャンルの映画の良さである。今作であればケリー(スカーレット・ヨハンソン)のアシスタントであるルビー(アンナ・ガルシア)やコール(チャニング・テイタム)をサポートするヘンリー、カメラ修理に大活躍するスチュワートやドン、映画監督のランスなど、目立ちすぎることなく、しかし確実に印象に残るキャラクターが深く丁寧にかつチャーミングに描かれている。この真摯なキャラクター造形が、「月面着陸はフェイクだった!?」というトンデモ陰謀論を下敷きにした、ともするとキワモノ映画になってしまいそうな本作を、落ち着いた見ごたえのある映画に押し上げている。

 また本作は、2000年代後半に下火になってしまったラブコメ洋画の復活を期待させる作品でもある。正反対の個性を持つ男女が同じ目的のために協力する中で次第に惹かれ合うというかなりテンプレートな物語を、ストレートに展開できているのが近年としては珍しい。1969年という時代の男女をそのまま映しているが、古臭くなく、押しつけがましくもない爽やかな男女の恋愛が描かれていることが、ジェンダーに関する話を以前のようにできなくなった(つまりそれが90、00年代的なラブコメが下火になった原因の一つでもあるのだが、)現代においては新たな見方を提示しているように感じた。ケリーは「誇張やときには嘘も交えて、現実をより魅力的にする」人物であり、反対にコールは「誠実に愚直に目の前の現実に向き合う」人物である。その二人が、互いの足りないところを補い合うように、そして互いに影響して自己の新たな面を引き出すことで、それぞれの問題を乗り越えていくという、恋愛の普遍的本質が描かれているように感じた。

スカーレット・ヨハンソン、チャニング・テイタム、ウディ・ハレルソンの主役級3人だけでなく、脇を固めるキャストの演技、虚実が入り混じるストーリー、当時の実際のものを活かしたロケット発射の映像、全編に効果的に流れるジャズなど、魅力が詰まった良作であった。

のむさん