劇場公開日 2025年3月20日

教皇選挙 : 映画評論・批評

2025年3月18日更新

2025年3月20日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

バチカンの奥の院で執り行われる「秘密の儀式」を盗み見るような映像体験

「教皇選挙」を意味する「コンクラーベ」については、高校の世界史の授業で学んだことを覚えています。駄洒落の好きな教師は、なかなか選挙結果が確定しない、何日もかかる選挙だから「コンクラーベ」は「根比べ」でもあるのだと語っていました。

いま、私たちが映画館で目撃する「教皇選挙」は、授業で学んだ内容のレベルを遙かに超越したものです。まさに、カトリックの「秘密の儀式」を盗み見るような驚きの映像体験だと言っていい。バチカンの奥の院で、深紅と白の装束をまとった枢機卿たちが見せる行いは、非常に刺激的で、しかもミステリアス。

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奥の院と書きましたが、実際にコンクラーベが行われる場所は、世界中から信者や観光客が訪れるシスティーナ礼拝堂です。そこで営まれるのは、まさしく「選挙」なのですが、世の中であまねく行われている選挙とは似て非なるもの。候補者(=枢機卿)は、立候補を宣言するわけでもなく、あからさまな選挙活動も行いません。彼らはそこに集まって、ただ投票する。当選者が決まるまで、投票を繰り返す。

選挙活動を経ずに、どうやって投票者の合意形成(=当選者の決定)に到るのか? という素朴な疑問が湧きますが、そこが非常に特殊で面白く、しかも人間の本性が垣間見え、この映画の大きな見どころになっています。一般的な選挙に比べると、大きな違和感を覚えます。しかし、それを上回る納得感や意外な発見などが新鮮な驚きとして次々に目の前に現れるのです。

本作は、2025年度の第97回アカデミー賞において、8部門にノミネートされました。結果、受賞したのは脚色賞(ピーター・ストローハン)だけでしたが、美術賞や衣装デザイン賞でもノミネートされていた点は強調しておきたい点です。実際にコンクラーベが行われるシスティーナ礼拝堂や、枢機卿たちが滞在するカーサ・サンタ・マルタは、チネチッタにセットを組んで撮影したそうです。ミケランジェロの「最後の審判」もそこにしっかり描かれています。

さて、教皇を選ぶ選挙は、枢機卿(=候補者)たちの票読みと票集めが粛々と続きながら、やがて候補者が数名に絞られ、クライマックスへと向かっていきます。首席枢機卿から「あなたは教皇になれない」と告げられてガックリとうなだれる者、他の者から推されながらも「私は教皇になるには、霊性に欠けている」と前向きになれない者……何度も投票が行われ、なかなか教皇が決まらない。まさに「根比べ」状態の先に、驚きの展開が待っていました。

いま(2025年3月中旬)、第266代ローマ教皇フランシスコは、呼吸器系の疾病で入院中です。生前退位の噂も高まってきており、もしもそうなったら速やかにコンクラーベが執り行われることになります。つまり本作の鑑賞は、世界でもっとも重要なポジションのひとつを決める選挙の疑似体験になるかも知れません。是非この機会に映画館でお楽しみください。

駒井尚文

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