「トランプの創造主の栄光と没落」アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
トランプの創造主の栄光と没落
2025年1月20日に2期目のアメリカ大統領に就任したドナルド・トランプの若き日を描いた作品でした。不明にして知らなかったのですが、”アプレンティス(Apprentice)”というのは”見習い”を意味する単語であると同時に、2004年から2015年までの間、アメリカNBCテレビでトランプの司会で放映されていたリアリティ番組の番組名だそうです。有名な「You're Fired!(お前はクビだ!) 」というトランプの決め台詞は、この番組で発したものだということを、この作品を観た後に初めて知ったところでした。
ご存じの方にとっては何の驚きもないところでしょうが、この番組は企業経営者の片腕として働きたい十数人の候補者=見習いが番組内で課題に取り組み、毎週1人ずつ”Fired”されていき、最後に残ったものが採用されるという内容らしいのですが、本作のトランプの見習い時代を描いており、英語による原題”The Apprentice”もさることながら、邦題の副題である”ドナルド・トランプの創り方”というのも秀逸な題名だと感心しました。
さて内容ですが、まず驚いたのがトランプ役のセバスチャン・スタンがトランプに無茶苦茶ソックリということ。勿論40年ほど前の若き日のトランプの姿は直に知らないのですが、容貌と言い振る舞いと言い、本人が演じているんじゃないかと思えるほどの再現度でした。
また演技の凄みを感じたのは、本作でトランプを創造した創造主として描かれたロイ・コーン役のジェレミー・ストロング。最初にトランプと出会った頃のロイ・コーンは、触ったら切れそうな強面弁護士で、まだ青さのあるトランプを叱咤しながら彼が不動産業界でのし上がっていくのを手伝います。しかしながらトランプが一角の不動産王になった頃には逆に没落するロイ・コーン。この時の弱々しく衰えた姿を演ずるジェレミー・ストロングの演技はまさに絶品でした。というか、本作はトランプの物語と言うよりも、トランプの創造主たるロイ・コーンの栄光と没落を描いた作品だったと言っても過言ではないように思いました。
続いて本作のキーワードであるトランプの「勝つための3つのルール」について。一つ目のルールは「攻撃、攻撃、攻撃」、二つ目は「絶対に非を認めない」、三つ目は「譬えどんなに劣勢でも、勝利を主張しろ」というものでしたが、これはロイ・コーンがトランプに教えたものとして描かれていました。確かにトランプの政治姿勢は、この3原則に従っており、トランプを表すのに最も適した言葉だと感じました。
因みに2016年のアメリカ大統領選挙にトランプが出馬し、あれよあれよと共和党候補になり、最終的にヒラリー・クリントンを破って本選でも勝利しましたが、当時彼に対して思ったのは、「アメリカにも橋下が出て来た」ということ。橋下とは勿論大阪府知事及び大阪市長を務めた橋下徹氏のことですが、彼は著書の中で「正直に自分の過ちを認めたところで、何のプラスにもならない」(『図説 心理戦で絶対負けない交渉術』日本文芸社)、「交渉では“脅し”という要素も非常に重要なものだ」(同)、「嘘つきは政治家と弁護士のはじまりなのっ!」(『まっとう勝負!』小学館)などと述べており、トランプ3原則とかなり被っています。
本作を観た結果、トランプと橋下氏の同質性を改めて感じたところでした。
そんな訳で、本作の評価は★4.4とします。