「父親の決断に涙」動物界 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
父親の決断に涙
シビル・ウォー、ジョーカー~としんどい良作が続き、「動物界」こちらもずっしりくる良作(バイオホラーではない)。
動物に変異する奇病が流行るが、その時人は…、というもので、隔離や偏見、それによる分断を描く。
だんだん獣に変化する息子を持つ、父親フランソワの決断は涙なしには見ることはできない。
「生きろ」という台詞はもののけ姫以降、邦画では使い捨てのように唱えられてきて半ば陳腐になった感があるのですが、今回は久々に琴線に触れました。
それまで、フランソワが執拗に妻を捜していたのは生存確認でもあるけれど、いわば自分が寂しいからでもあるんですよね。家族が変化して、自分の元にいるよりありのままの姿で生きいてもらうことが、家族にとって幸せなんだとようやく決断する。
たとえその先に、野生において厳しい適者生存のサバイバル生活が待っていようと、自分で選択することの自由を考えると、無理矢理姿をねじ曲げられ、囲われて生活するよりいいわけです。
しかしフランソワが今後、身をもがれるような孤独に耐えることを考えると、やはり同情してしまうわけです。鑑賞後に自分だったら、どうするだろうか?と自問自答させられます。
それにしても人間はなぜ、つかずはなれず共存する、という手段をとれないのだろうか?理解できない存在を憎む必要はない、はず。
平たくいえば愛の物語なのですが、添加物の危険性や改造された森林の脆弱さなど、フランソワの台詞をかいつまんでいくと、愛のレイヤーの下に、人間への天罰という黙示録のようなレイヤーが隠されていると受け取れなくもない。
立ちこめる黒雲や大雨などはメタファーなのかも。