「ランティモスの不条理の中に」憐れみの3章 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ランティモスの不条理の中に
『女王陛下のお気に入り』『哀れなるものたち』で間口が広くなった感のあるヨルゴス・ランティモス。
この2作も充分異色作だが、ギリシャ時代はもっと怪作だった事は言わずもがな。
ギリシャ時代に組んでいた共同脚本エフティミス・フィリップと久し振りに組み、この不穏さ、この異様さ、この恐ろしさ、この胸糞悪さ、このブラックさ、このシュールさ、この難解さ。
3本立てのアンソロジー。それぞれが全く別の話。
エマ・ストーン、ジェシー・プレモンス、ウィレム・デフォーらもそれぞれで別の役柄。主役になったり、脇に回ったり。プレモンスは各エピソードで役回りは大きく、実力を遺憾なく発揮。
“あの頃”のようなランティモス・ワールド再び。一つ約50分前後のランティモス中編作品を3本もまとめて見れる。
ランティモス好きにとっては贅沢この上ない。
そうでなかったら…。これも言わずもがな。
愛や支配を元に描かれるのは…
人生を取り戻そうとする選択の余地のない男の話。
海で行方不明になって別人のようになって帰ってきた妻を恐れる夫の話。
特別な精神的指導者となる人物を探そうとする女の話。
一、R.M.F.の死
ロバートは会社の上司レイモンドに絶対服従。毎日のルーティンも読む本も夜の営みも。一人の男を衝突事故に見せ掛けて轢き殺すよう強要されるが、さすがに恐れをなして断る。信頼を失い、再就職に失敗し、妻もいなくなり…。ある時バーでリタという女性と出会うが…。
最初はどういう話なのかまるで分からず。途中あらすじ詳細の助けを借りてようやく話が分かった。
リタもまたレイモンドの息の掛かった女性。信頼取り戻しとリタの失敗を挽回する為に、ターゲットの男を轢き殺す。ロバートは信頼を取り戻すが…。
出会った女性まで支配下。レイモンドは何者…?
ターゲットの男R.M.F.すら謎のまま。
ラストシーン、信頼や愛や人生を取り戻したかのように見えるロバートだが、その心中は…。
最初はよく分からなかったが、最後は皮肉と不条理さにいい意味でモヤモヤした。
一、R.M.F.は飛ぶ
警官ダニエルの妻で海洋学者のリズが海難事故で行方不明に。ダニエルは心配で堪らない。救助されたとの報せが。喜ぶダニエルだったが…。帰ってきたリズは食の好みや趣味や強引な性欲など以前とはまるで変わり…。帰ってきた妻は別人では…? 疑心暗鬼に陥ったダニエルは妻を恐れるようになり…。
比較的入り口が分かり易かったのがこのエピソード。だが、帰ってきた妻は本物か別人か…ランティモスはそんなよくある設定にしない。
遭難中リズに何があったか…? 挿入はされるが(カニバリズム的な…?)、確かには描かれない。
リズよりダニエルに焦点が置かれる。ダニエルは次第に狂気に取り憑かれ、仕事で不祥事を起こし、リズには…((( ;゚Д゚)))
ラストシーンがまた難。ダニエルの妄想とされているが、真意は分からない。
入り口は最も入り易かったが、出口で見る者を迷わせる。戦慄ホラーでもあった。
一、R.M.F.サンドイッチを食べる
最もよく分からなかったのが、これ。
あるカルト宗教団体。エミリーは次の指導者となる運命にある特別な人物を探す。
夫や子供もいるが、近くに寄っても顔を見せる程度で、ほとんど省みず。現指導者には身も捧げる。狂信的に。
誘拐~拉致。してきた人物をコミュニティーにあるサウナへ。蒸したその身体を現指導者が舐める。
『ミッドサマー』的なその異様さに“?”が幾つあっても足りない。
ラストも唐突に。エマのキュートなダンスも含め、とにかくシュールであった。
長尺で難解。ブラックなユーモアと恐ろしさあり、強烈なインパクト。役者陣の怪熱演と奇才っぷり。昨今だとこれまたアリ・アスターの『ボーはおそれている』を見た時のような…。(2024年屈指の怪作のあちらよりかはまだ間口は広いかもしれないが…)
ジャンルはブラック・コメディとされているが、私的には不条理ホラー。精神を舐め回すような、何か嫌なものを見たなぁ…という感じの不快感。音楽がまた神経を逆撫でする。
だから好き嫌いははっきりと。
好きな人にはお帰りなさい、THEランティモス!
合わない人には…、鬱に陥る160分強。
私的には各エピソードによって違いもあるが、正直、よく分からなかった。原題の意味(親切の種類)も…??
ひょっとしたら、それすらもランティモスの手中なのかもしれない…。