劇場公開日 2024年9月27日

「支配関係」憐れみの3章 ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5支配関係

2024年10月3日
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鑑賞方法:映画館

難しい

ヨルゴス・ランティモス監督の作品に共通するテーマは「支配関係」である。
過去作では、「籠の中の乙女」(2009)は、子供たちが自宅軟禁状態で育てられる両親による徹底した支配、「ロブスター」(2015)は、恋人のいない独身者が施設に拘束されて相手を見つけないと動物に変えられてしまうという支配、「聖なる鹿殺し」(2017)は、裕福な家庭をほしいままにする謎の青年による支配、「女王陛下のお気に入り」(2019)は、三人の女性たちがバトルを繰り広げる王室支配、「哀れなるものたち」は、主人公が体感していく社会における男性支配が描かれている。
今作では、1章は、レイモンドがロバートの生活すべてを支配、2章は、妻が偽物だと疑うダニエルがリズの生殺与奪を支配、3章は、オミ率いるカルト教団がエミリーたちを支配という関係になっている。非常に興味深いのは、被支配者が支配者の要求にことごとく応えていることだ。関係性を維持するために、もしくは相手に愛情を伝えるために、支配を受け入れる。客観的にみれば虐待にも見える倒錯的な愛を通して、人間の本質をあぶりだしている。
この世に生きる人々は程度の差こそあれ、みんな何かに縛られ、何かに支配されて生きているが、ランティモス監督が描いているのは支配される側の人間たちだ。映画では、支配される側は支配する側から脱走を試みるが、それは、「哀れなるものたち」以外は、いつも拙劣なものに終始し、成功することはないという結論があらかじめ用意されている。
この映画のテーマ曲であるユーリズミックスの「Sweet Dream」(甘い夢)では、
「あなたを利用したい人もいれば あなたに利用されたい者もいる
 あなたを虐待したい者もいる 虐待されたい人もいる」
という歌詞があるが、これは、人間にある支配と被支配という欲望を言い当てているといえるだろう。
突然得体の知れない狂気に放り込まれる緊張感、ぶっ飛んだ感性でこの世界を揶揄する独創的なセンス、ランティモス監督の世界は一度観たら忘れられない。

ミカエル