劇場公開日 2024年9月27日

「ランティモスのやさしさ」憐れみの3章 Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ランティモスのやさしさ

2024年10月3日
Androidアプリから投稿

前回の「哀れなるものたち」の壮大な冒険譚も良かったけど、やっぱ、ランティモスは神話的アイロニー&悪趣味ブラックコメディが良い!今後もこの路線でお願いしたい。

本作の神は、無力な人間が謙虚に神に頼って従い、その上で「神のお入用なのだ」と勇気を持って日々歩むことを望む。そんな神の狡猾な方法にすっかり取り込まれているようなジェシー・プレモンスが見せる、エマ・ストーンへの様々なKINDNESS。

1章。ジェシー・プレモンスは自分と同じ境遇のエマ・ストーンを殺人の罪から救いたい。一度断った自分が代わりに罪を負う。
RMSが死んだのは、弱い人間を利用した神の計画、目的、意図の結果のように描かれているが、実は人間の無意識にある自由意志、根底にあるKINDNESSだったというお話。
これから始まる世界へ誘う完璧なストーリー。

2章。タブーなものを食べて生き延びて帰って来たエマ・ストーンに、自分の食事のために残酷な依頼をするジェシー・プレモンス。
人間の肉欲の力は、神の前になんの価値もない、神の心を満足させられるのは、エマ・ストーンが喜んで悔い改めること。ジェシー・プレモンスは神のように振る舞いながら、タブーを犯した妻(肉欲のカラス)を昇天させ、素直な妻(鳩)に帰って来させた。
宗教は人間が倫理を守るために寓話的に利用するもの。

3章。悪魔的クソ旦那と愛する娘への葛藤からカルト集団に依存しているエマ・ストーン。「愛されたい」「受け入れられたい」「支配されたい」と願いながら、無駄にドリフトを決めて駐車する癖は、「自由でありたい」「自己管理したい」という気持ちの現れ。そんな危ういバランスの彼女をジェシー・プレモンスは家族のように見守っている。

救世主を探し、ついに不思議な力を持つ女を見つけたエマ・ストーンは自由に喜びのダンスを踊り、その後の乱暴な運転で教団の愛を失うことになる。
無意識に「愛されたい」より「自立したい」が上回ったようだ。

で、ラスト。キリストの血は全人類の罪に赦しをもたらすために流されたと言うけれど、復活したRMSの胸を染めたのはまさかのケチャップ。大爆笑した。

登場人物たちが理不尽な目に遭うことで、人間の生はそもそも不条理であること、人は理由なく人を殺し、殺されること、神がいざという時になんの助けにもならないこと、そもそも神は介在しないことを問答無用に理解させる。今の世界に痛烈なメッセージだと思った。

以前のランティモスは少々自虐的だったが、本作のランティモスは意地悪さがない。人間の自由意志、倫理、自立という三柱を軸に、私たちの根底のKINDNESSに希望を与えてくれた。

Raspberry
Raspberryさんのコメント
2024年10月7日

らんらんさん。
コメントありがとうございます。鑑賞者次第で様々な解釈が出来るところが本作の魅力ですね😊

Raspberry
らんらんさんのコメント
2024年10月4日

1章で私は エマを救いたい のではなく、自分が上司のお気に入りに戻りたい という一心でああしたと受け取りましたが、そういう考えもあるんですね。

らんらん