「期待度◎鑑賞後の満足度◎ 原題が『様々な親切さ・優しさ』の意味なら内容に何ともピッタリ。第三話のラストに“世の中そんなものよ”と思い、鑑賞後は何故か愉快な気分になった私って変(かな)?」憐れみの3章 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
期待度◎鑑賞後の満足度◎ 原題が『様々な親切さ・優しさ』の意味なら内容に何ともピッタリ。第三話のラストに“世の中そんなものよ”と思い、鑑賞後は何故か愉快な気分になった私って変(かな)?
《愉快、痛快、奇々怪々》
①世の中、自覚的にせよ無自覚であるにせよ「救われたい」と思っている人がいっぱいいるんだろうな、と思わせてくれる📽️。
本作の三つのエピソードに登場する中心人物たちは殆ど皆かなりおかしい人達ばかりだけれども、その「救われたい」という気持ちがエスカレートし過ぎていて自分や周りが見えなくなっているだけと捉えると、もしかすると自分の周りで理解できなかったり、変だよな、と思う振る舞い・行動(本作の登場人物ほど極端でないにせよ)をしている人がいれば、そういうことか、と府に落ちたり、いやいや、そういう自分も自覚していないだけで実は他人から少し変わっているなと密かに思われていたりするかも、とも勘繰ってしまいそう。
まあ、この歳になれば人にどう思われてたっていいや、と開き直ってしまうけど…
②大傑作『哀れなるものたち』で一皮剥けた(と思う)ヨルゴス・ランティモス監督が、今年初めに公開された『哀れなるものたち』から一年も経たない間に公開された本作。どんだけ作んの早いねん、と思ったけれども、観る日を楽しみにしておりましたん。内容としては『聖なる鹿殺し』『ロブスター』の世界観に近いものに戻ったが(同じ共同脚本家との合作だし、『哀れなるものたち』は原作ありきだし)、『ロブスター』『聖なる鹿殺し』『女王陛下のお気に入り』が鑑賞後に不穏さと共に後味の悪さが残ったのと違い、本作は不穏さはあるが、愉快は気分になったのでやはり一皮剥けたのかな。
④開幕を告げるユーズリミックスの『Sweet dreams are made of this』。
ランティスモス監督作品が醸し出す不穏さにぴったりのオープニングだし、歌詞も見終わった後に本作の内容をそれとなく語っていたとわかるし、何より1980年代の海外ポップスをリアルタイムで聴いていた世代としてはか0この選曲が嬉しい。
第一話のラストでヴィヴィアンが歌う(ヘタっぴ 笑!)ビージーズの『How deep is your love』も話の内容に余りにピッタリ過ぎる選曲で可笑しい。
ーここからは各エピソードの具体的な内容に触れますー
第一話:現代社会を生きる私たちも結局何かに依存して生きていることをかなりカリカチュアライズした話。
変人だが大金持ちで権力のある男に衣食住(愛すら)を依存していた男がささやかな反抗を試みるが、結局彼なしには普通の社会生活が送れないことを悟り許しを乞い彼の命令を嬉々としてこなす男の話。
ヘルメットの黄色から目玉焼き(サニーサイド)の黄身にパンする映像。出来た目玉焼きの黄身の部分だけ切り取って捨てた(と私には見えたんですが)映像の意味するもの。
可笑しかったのは、途方にくれた男が偶々バーで見かけた女に惹かれて近づくが、実はその女も同じ境遇にあると知り(しかも男に託されたのと同じミッションを託されて殆ど成功仕掛けていた)、同じ境遇同士で結び付くのかとおもいきや、先を越されてなるものかと重傷者を無理矢理病室から連れ出すと二度も車で引き殺すという非道さ。なのにボスのもとに駆けつけると嬉々として自分のやったことを報告する。本当に人間て哀しいものですね♫
ラストシーンは『哀れなるものたち』の自己パロディかと思いました。
ただ、男が病院の介護士を襲ってユニフォームとパスを盗む時介護士を殺したのかな?そこがハッキリ描写されなかった(或いは編集でカットしたか)のが少し物足りない。
第二話:第一話では殆どエログロ描写は無かったが(R.M.F.さんを二回轢いた場面くらい)、第二話はランティスモス監督ならではのエログロ描写満開である。
三話の中でも最も不穏な内容でもあるが何故か既知感のある話でもある。
最も直接“愛”について語ったエピソードとも言うべきか。
“あの”ビデオシーンには、お約束みたいに思えてしまって笑ってしまった。
日本のヤクザ映画さながらに(こちらは大概小指ですが)、エマ・ストーンが親指を切り落とすシーン。失神する直前のエマ・ストーンの表情が忘れ難い。肝臓を取り出した後の死に顔も。
自分の中にあるので自分では見られない人間の肝臓もレバーと同じ色なんだ、と当たり前のことに気づかされたシーンでもありました。
精神科医の(若い)先生“何も分かってないやん”と突っ込みたくなるエピソードでもありました。
第三話:“水”を扱う新興宗教(モドキも含め)は日本だけでなく世界中にあるんだな、と変なところに感心。
劇中でエマ・ストーンが娘に語る通りに(娘のエマ・ストーンを見る目がすっかり冷めているのも印象的)、人間の体の大部分は水なんだから“水”を売りものにするのは確かに納得できるというか誰でも術中にはまりやすいというかクレバーだな、とまた気付かされてしまった。
家族を捨ててまで活動している狂信的なママを仕事が出来るチャキチャキとしたキャリアウーマンの如くシリアスに演じているエマ・ストーンが何故か可笑しく絶妙なコメディアンぶりを見せる。
双子の妹を自殺させてまで手に入れた「捜していた女性」を“水”のせいで死なせてしまう皮肉。
フロントガラスから飛び出して死んだルースの死に顔(確か眼から涙がこぼれていた筈、余計なことをしてくれて、と言ってるような気もしたが)を見て、思わず「世の中ってこんなもんだよな」と心のなかで言っておりました。
○でも、R.M.F.って何の略だったんでしょうね。
○第一話で無惨に殺されたR.M.F.さんを、第三話で生き返らせてあげる、という kind な📽️でもあります。
出演者:エマ・ストーンとウィリアム・デフォーはともかく、他の出演者は初めて見る顔ばかりだな、と思っていたら結構色んな映画で前から見てました。名前は忘れても顔は忘れない人間だったんですけどね、情けない😢
①エマ・ストーン;大ファンなので殆どの出演作は見てますが、王道のハリウッドスター女優街道をいく人かと思っていたけれども(でも今でも『小悪魔はなぜもてる』の彼女が一番好きです)、『女王陛下のお気に入り』くらいから独自路線を進み始めて(ハル・ベリーの、オスカーを獲った後(!)にボンドガールになった時も前代未聞で時代は変わったなぁ、と思ったけれど、エマ・ストーンの『哀れなるものたち』の演技も、かってならオスカー女優があんな役をするなんて、と云われるような衝撃度、でもそれで二度目のオスカーを獲ったのだから、ハリウッドもそれなりに進歩してるんだなと思った次第)、本作でもさすがに年齢を感じさせるようになった顔そのままで、第一話はごく普通の女の子役だが、第二話では究極のマゾヒストと断じれないし、行方不明中に見たという「人間と犬とが立場が逆転した世界」で過ごしたという夢から来る妄想に囚われてご主人様の言いつけには従わないといけないと思ったのかどうかも判然としないが、それこそ「死が二人を別つまで」を実践する女性を怪演。他の女優ならもっと怖いか不気味な女になったかも知れないけれども、そこはエマ・ストーンの個性が上手く緩和している。