劇場公開日 2024年9月27日

「脚本の面白さは特筆もの。「哀れなるものたち」ほどの構えの大きさはないけれど十分楽しめます。」憐れみの3章 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0脚本の面白さは特筆もの。「哀れなるものたち」ほどの構えの大きさはないけれど十分楽しめます。

2024年9月27日
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鑑賞方法:映画館

ヨルゴス・ランティモス(以下Y・L)のインタビューによると共同脚本のエフティミス・フィリップとはしばらく前からこの作品の脚本を書き溜めていた。「哀れなるものたち」が編集段階に入り少し手が空いたため本作に取り掛かったのこと。「哀れなるものたち」スケールの作品と並行して別作品を進行させるというのは尋常なことではない。Y・Lはじめ制作者たちの映画製作能力の高さを物語っている。
本作についてはまず筋が面白い。ユニークであり、荒唐無稽とは言い切れない説得力がある。原題の「Kindness」を邦題では「憐れみ」と翻訳しているが、支配する側からの「好意」「好感」であると読み取れる。すなわち圧倒的な暴力や権力で人を支配している組織や人が、支配されている側にかけてやる「お情け」といったイメージ。ただしそれは被支配者が従順でかつ成果を出している限りにおいてであって、ひとたび過ちを犯した場合は容赦なく切り捨てられる。そのため被支配者は再びお情けを頂戴できるよう、猪突猛進しありとあらゆる手練手管をつくす。
本作においては第1章「R.M.Fの死」と第3章「R.M.F サンドイッチを食べる」がどんぴしゃりその構造。第2章「R.M.Fは飛ぶ」は男女間の支配と服従を描いており2人の関係の軸がだんだん変化していくのでもう少し複雑ではある。
ところでY・Lの作品では、映画の中で何者かの視線を感じることがある。例えば、「哀れなるものたち」でたびたび現れる魚眼レンズで撮影したかのようなシーン。映画の中で起こったことをなぞっているが筋の進行には寄与せず、また登場人物の誰の視点でもない不思議な位置づけのシーン群である。私はあれは神の視座だと思っている。
意識的か無意識的かは分からないが、Y・Lは神が見ていることを前提として人間世界の営み〜それは大体において奇妙に歪んでいるが〜を描いている。つまり、神に見られること、神の臨場のもとにあることで、映画の主題の柄の大きさ、リアル感が高まっているのである。そのようにして「女王陛下のお気に入り」では背徳が、「ロブスター」では赦しが、そして「哀れなるものたち」では輝かしいまでの愛が大きな主題として表現された。
「憐れみの3章」では先行する作品群ほどの高いテーマ性はみられないような気はする。神との接点は従来の作品と同様にきちんとあって、それがR.M.Fなのである。R.M.Fは要所要所に君臨するが、ずーっと視ているという感じでもない。だからこの映画はやや構えが小さくなったのかしら。サンドイッチを食べたりしてサボってるから?それにしても奇想以外の何物でもないが。
ちなみにタイトルバックのかっこよしの曲は、
EURYTHMICSの「Sweet Dreams」。
3章でエマが踊り狂うシーンの曲はCOBRAHの「Brand New Bitch」。
クールだよね。

あんちゃん
bionさんのコメント
2024年9月28日

コメントありがとうございます。
この作品が、『哀れなるものたち』と並行して制作されたとは驚きです。
ユーリズミックスだけでなく、Dioの曲を挿入する意外性がクール。

bion