劇場公開日 2024年9月13日

「今こそアイヌに学びたい」シサム おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5今こそアイヌに学びたい

2024年9月15日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

予告からすでに泣けてきて、鑑賞を決めていた本作。公開初日にさっそく鑑賞してきました。

ストーリーは、江戸時代初期の松前藩でアイヌとの交易を営んでいた兄・栄之助とともに蝦夷地に赴いた孝二郎が、そこで兄を殺した善助を追う中で負傷したところをアイヌの人々に助けられ、彼らと触れ合う中でアイヌに対する認識を改め、自身を見つめ直していくというもの。

大筋は予告でわかっていた感じの展開なので、そこに意外性はありません。ただ、兄を殺した善助にも、単なる金品目的や怨恨ではなく、彼なりの大義や強い思いがあってのことだったのは意外でした。それが後々わかってくるのですが、それがアイヌとの関係性にも深く関与している点がとてもよかったです。物語としても、このあたりからおもしろさが増してきます。

また、松前藩とアイヌとの戦闘シーンは、大軍勢の戦乱を見慣れた目にはかなり地味で、分隊から小隊程度の人数で行うゲリラ戦の様相ですが、それでもかなりの恐怖を感じます。どこからともなく放たれる矢、その矢の強烈な風切り音、急所を射抜かれ即死する兵士、それを一人称視点で感じさせるカメラワークなど、巧みな演出が臨場感と恐怖を生み出しています。そして、この戦闘に大きな意味を見出せないことが本当に切ないです。

搾取される憤りから蜂起するアイヌの人々と、その心情を察することなく役目として鎮圧する藩士。どちらも自分の正義に基づいて行動しているのに、どちらが勝っても事態の解決には至らず、憎しみの連鎖を生み出すばかりです。かといって、その感情を捨てきれないのも、人の性です。兄の敵討ちに固執する孝二郎に対し、「その憎しみを捨てられるのか」と問う村長の言葉が刺さります。そんな村長が武力蜂起には参加しないと決断し、目前に敵が迫っても逃げず、「なぜ我々が逃げねばならないのか。ただここで生きてきただけだ。」と訴える姿に、熱いものが込み上げてきます。

タイトルの「シサム」とはアイヌ語で「よき隣人」という意味らしいです。自然を敬い、自然と共に生きてきたアイヌの人々は、大自然の「よき隣人」であり、和人に対しても同じ思いで接したかったのではないかと思います。それに対して、和人はアイヌを「都合よき隣人」と思っていたのでしょう。力ある者が弱き者を虐げるという構図は、現代社会でも続いています。だからこそ、和人の搾取とアイヌの窮状をもっと生々しく描き、現代を生きる私たちに強く訴えかけてほしかったです。残念ながらそこが薄く、思ったほど泣けませんでした。それでも、エンディングで流れる中島みゆきさんの歌声で、一気に感動的に丸め込まれてしまった感はあり、鑑賞後の印象は悪くないです。

本作は史実に基づくフィクションということですが、シャクシャインの戦いに絡めて架空のコタンを描いたということでしょうか。孝二郎のモデルや残された史料があるのか、ちょっと気になります。また、本作で描かれるアイヌの食や文化にも興味をそそられます。最近、「カムイのうた」「ゴールデンカムイ」などの公開もあり、改めてアイヌが注目されるようにもなってきたので、アイヌ文化を訪ねてのんびり北海道に旅行に行きたくなりました。

主演は寛一郎さんで、アイヌに触れて揺れる孝二郎を好演しています。脇を固めるのは、三浦貴大さん、和田正人さん、坂東龍汰さん、平野貴大さん、サヘル・ローズさんら。中でも、平野貴大さんの落ち着いた演技が、いい味を出しています。

おじゃる
トミーさんのコメント
2024年9月16日

共感ありがとうございます。
大分的外れと思いますがアイヌの人が米の飯を食べている描写が無い、米俵の大きさが反乱にまで繋がったのに。あれじゃあ主食鮭? と思っちゃいますよ。

トミー