「デパ地下で買った安いオードブルを小皿に取り分けたものを順番に出して...」逃走中 THE MOVIE らいすさんの映画レビュー(感想・評価)
デパ地下で買った安いオードブルを小皿に取り分けたものを順番に出して...
デパ地下で買った安いオードブルを小皿に取り分けたものを順番に出して、コース料理と称してるような映画。色々言われてる演技ですが、まぁセリフは大体聞き取れたのでその分で星1です
一応のストーリーらしきものはあるんですが、お話の流れの中で「何となくいい感じに見えるシーン」を脈絡なく放り込んで無理やり繋げる事で話が作られていて、全体的にぶつ切りで浮いていますし、急に設定が追加されたり、釈然としなかったり前後で繋がっていない場面も多いです。途中で挟まれた数字ゲームの敗者が殺される際、他の参加者は一瞬で消されていたのに主人公達だけはかなり長く別れの言葉を交す余裕がありました。どういう事なんでしょうね。そんな感じでずっと「エモい感じの空気を出す」ためにに色んな要素が都合よく動かされてます。
ヒロイン?の女の子は失語症に陥った弟を連れてなぜわざわざあんな大規模な鬼ごっこに参加するのか。そりゃ逸れますよね。途中からバラエティ番組の企画という体だったものが謎の集団にジャックされてデスゲームになるわけですが、その状態でもあっさり逸れます。多分弟の事が大事じゃないんでしょうね。姉弟の絆があるような描き方をしたがっているフシもあるんですがいちいち逸れないと話を作れないんでしょうか。
陸上部のメンバーは冒頭のシーンでそれぞれの事情から進んで逃走中に参加したような描かれ方をしているのですが、実はメンバーの一人が散り散りになった仲間と再開したいがために全員分の応募を行った、という話が中盤でされ、かと思えば別のメンバーが「他のメンバーに対して密かに抱いていたコンプレックスから脱却するため(要約)」進んで参加したような事を言い出すなど場面場面で言っている事がちぐはぐで何を信じて良いのかわかりません。実は複数の世界が同時に描写されるタイプのSF作品だったりするんでしょうか。
登場人物が元陸上部員とはいえ素人の作ったリレー小説を脚本に採用するのはやめたほうが良いと思います
前述の通り途中からデスゲームが始まるんですが、登場人物が特撮モノでもないのにキツめのコスプレをしていたり、人数を減らすために低予算感溢れるミニゲームが始まったりするせいでバラエティの空気がまるで抜けておらず、登場人物も捕まったら消滅してしまうという触れ込みにも関わらず割と余裕を持って身の上話をしていたりするためおおよそ緊張感や悲壮感というものは皆無。眉間にシワをずっと寄せていろとは言いませんが一応命がかかっているという事になっているのだからもっと真剣にやってほしいものです。
恐ろしいハンターから逃げているときはその調子にも関わらず、バスに乗って移送して貰っている場面で急に塞ぎ込んだような態度を取ったりとチグハグですね。バスの中で喋ってても絵にならないからでしょう。
陸上部の面々の友情の復活にも話の軸が置かれているのですが、そもそも彼らにちゃんと友情があったのか疑わしい部分も散見されてイマイチ乗れませんでした
3年間一致団結して目指してきた大会の当日に何も言わずに家の事情で夜逃げして、逃げるのはともかくとして事情を全く伝えなかった理由が「お前らに同情されたくなかった」ってなんですか。要はプライドの話でしかないわけですよ。事情も言わずにいきなり仲間に居なくなられた側の気持ちは全く無視されてますね。それって友達なんです?
町工場の三代目の人は倒産寸前の実家の危機を救うためにゲームに参加していたものの友情も捨てきれない、といった感じの描かれ方をしていますが、その最期は「みんなとお揃いにした思い出のミサンガが切れて落ちたので、ミサンガを拾うために、泣いて母親に詫びながらハンターの居る方に向かっていって殺される」です
いや思い出の品なのはわかりますよ? スポーツマンの方にはポピュラーなゲン担ぎですしね。ミサンガ。でもアレはただの組み紐です。実家の命運と自分の命までを差し出して拾いにいかなければならないものなのでしょうか。そこまでして紐一本守らないと一緒に切れてしまう程度の友情なんですか? 友達がそれほど大事だと自覚したのなら何としても共に生き残るべきなのでは? 恐らく感動的なシーンとして作られているのですが驚くほど乗れませんでした
好意的なレビューにも厳しいレビューにも「何も考えないで見られるから子供にいい」といった主旨の意見が散見されるんですが、これとんでもないですよ。こう云うものを子供に見せちゃいけません。
確かに「何も考えずに楽しむ」娯楽はあります。映画だとサメ映画とかパニック映画とかでしょうか。ストーリーやメッセージ性より荒唐無稽さや演出そのものを楽しむタイプの映画ですね。でもそれは観る側が最初から「そういうもの」だと云うマインドセットを作って観るものです。「何も考えない」事を考えた上で意識的に選択するんですね。
何も考えずに楽しむってそこそこ高度な娯楽なんですよ?
翻ってこの映画がそうかと言うと、コレ一応はストーリー映画なんですね。一応メッセージ性らしきものもある。筋がいい加減で登場人物の行動が支離滅裂なので思考を放棄して受け入れないと引っかかるノイズが多すぎるだけです。「何も考えない」しか選べないんですね。子供から思考を奪ってます。
子供から思考を奪って、その上で支離滅裂で無駄の多い行動をする人物を演出やBGMでヒロイックに飾り立てて「コレは格好いいんだよ」と教えます。お母さんが観終わった後に「面白かったね」とか言います。子どもの世間はまだ狭いですからね。間違った学習をします。現実の問題を直視せず、細かいことを考えずにその場の雰囲気でそれっぽい事言ってるのが格好いいんだと認識します。苦労しますよ。大人になったらとかそんな気の長いことは言いません。子供の頃から大変です。だって現実の問題で「細かいことを考えずに」解決できることって殆どないですからね。手足をもぎ取られるようなものですよ。どうかお子さんを大事にしてあげてください