「「逃走中」である必要皆無の映画 アイドルファンの方に”のみ”オススメ」逃走中 THE MOVIE ななしまななしさんの映画レビュー(感想・評価)
「逃走中」である必要皆無の映画 アイドルファンの方に”のみ”オススメ
Twitterで軽く炎上していたのを目撃したため、予定を早めて視聴。
2010年からリアタイしている逃走中ファンです。(ストーリー要素を含む他媒体のアニメ版・ノベライズ版逃走中は共に未視聴)
結論から言うと、主演を務められたJO1とFANTASTICSのファンの方々は楽しめると思いますが、それ以外の方(純粋な映画好き、逃走中ファン)のかたはおそらく楽しめません。
ざっと感想を述べるならば、舞台装置として用いられるゲームが逃走中である必要性が皆無です。
ゲームが乗っ取られる前、乗っ取られて以降、どちらにおいてもハンターに追いかけられそれを振り切るという本家番組で言う肝の部分がほとんどありません。
また、発動するミッションもごくわずかで、逃走中感がありません。これならば別のゲームを舞台装置として設けたほうがいい、といった思いを抱きました。
役者陣の演技については、自分は全くのド素人なので特段気になりませんでした。アイドルの方々のファンなら十分楽しめると思います。
ですが脚本が正直ダメです。さっさと逃げなければいけない場面でキャラ同士が長々としゃべる。とっくにハンターにつかまったはずなのに、リセットボタンを押してからでもしゃべれるのに、辞世の句がやたら長いなどくどい場面が多かったです。
くどいでいうと、ラストのボスワイルドハンターとの決戦直前で、「Run...」と何度もいうシーンもめちゃくどいです。一回でいいだろ。
加えて、謎の姉弟は正直いらないです。最終局面はなぜか男の子が最後の命運を決める展開になっているのが意味不明でした。
おそらくファン向け映画として振り切ってる作品だと思うため、それなら最後までアイドルの方に演じ切らせるのが筋だと思います。
あと姉のほうが場面転換のたびに弟とはぐれているのもストレスです。手、つないであげて……。
終盤、裏切った6人のうちの一人とよくわからん女の取り巻きが、一切のおとがめなしに仲間になるのも意味が分かりません。最低限なにか理由があることを提示してほしかったです。そもそも、仲間が急に裏切るのについてもなんら説明がないので意味不明です。
リセットボタンについても、あくまでも「ゲームがなかったことになる」というものにすぎないのに、なぜか歴史修正が起こっているのもご都合主義で意味不明。リセットボタンが押されて以降、ずっと頭の中が???でした。
また、あの女はなぜボタンの効果を知っていたのでしょうか。脚本の粗が目立ちます。
総括すると、完全にアイドルファン向け映画です。それ以外の方は見ないほうがいいでしょう。
(再度フォローしておくと、アイドルの方々の演技は個人的には問題ありません。この映画をダメにしているのは正直脚本です。アイドルの方々はある種”被害者”と言っていいでしょう)
以上、映画としての感想です。以下、一介の逃走中ファンとして、これはどうなんだという部分を私の勝手な要望も含め列挙します。
映画の感想からはやや離れるので、読みたい方、共感できそうな方だけどうぞ。
1.クロノス社まわりの設定
逃走中を開催するクロノス社は”西暦2900年”に存在する企業です。しかし、作中終盤、ゲームマスターKは「お前の選んだ結果がどんなふうになるか100年後が楽しみだ」的な発言をしています。
作中年2024年の100年後、つまり2124年にはまだ逃走中を開催するだけの技術力が整っていません。
時間的な破綻が起きていますね。もしかしたらゲームマスターKが高い技術力を有していて、800年先のクロノス社のシステムをハッキングしたのかもしれませんが、この辺は統一しておいてほしかったです。
また、ゲームマスターKのゲーム乗っ取りの目的も結局不明のまま完結してしまったのもどうかと思います。
せっかくクロノス社の設定を用いているのであれば、かつての未来ドラマの設定(ヘリオス社や有明リョージ、竹取カレンあたりの設定)をどうにか生かせなかったものかなと思います。Kがゲームを乗っ取ったと思われる動機(自分の欲望に忠実になるか否か)的なテーマは未来ドラマにも通ずるものがあるので、これを使わなかったのは残念です(物語が冗長になることは否定できませんが)。
というか青山シズカはなにをしてるんだとなりました。過去にもゲーム乗っ取られてたでしょうに。
あと、クロノス社がおそらく作中では現実の企業となっているのも少し気になりました。現実世界では、ドラマを作る上での架空の企業にすぎないのに、作中内ではアンドロイドとしてのハンターも、企業としてのクロノス社も存在している扱いになっているようです。
事実、ワイルドハンターが登場した際にも、登場人物たちは演出の一つではなく、あくまでも「本当にクロノス社が乗っ取られて、アンドロイドが暴走しだした」と考えているようでした。
この辺は、映画化に際しては仕方ないのかなと思います。クロノス社とフジテレビが協賛して作っている番組だと捉えれば問題ないでしょう。
ついでに、ゲームマスターの取り巻きがうざかったです。ゲームの主催者ならば最低限聞き取りやすい声で、きちんとゲームの説明をしてほしいです。何言ってるかわからなくてイライラしました。
2.”逃走中”というゲーム自体について
(屁理屈じみた論が続きます)
デスゲーム逃走中を物語の軸として置く以上、従来の逃走中は早めに終わらせるのは仕方ないとはいえ、従来の逃走中をもう少し行ってほしいなとファン的には感じました。
また逃走者たちについても各所で自撮りしたりなんだりと、緊張感がありません。もっと真剣にやってほしいです(厄介オタク)。
唯一行われたミッションについても、時限装置が作動するからカードを探してね、と説明不足感が否めません(時限装置だけでは、位置情報通知なのか、アラーム音作動なのかがわからない)。
一応”ゲーム”なのですから、視聴者側に分かりやすい説明が欲しかったです。
乗っ取られて以降のゲームは、そもそももって、今ゲームがどのように進行しているかがわかりにくかったです。
逃走中、というゲームの特性上、残り逃走者数、逃走エリア、稼働中のハンターの数、発動中のミッションの内容は最低限提示してもらわないと、今何が起こっているかが把握できません。
そしてそもそもの話になりますが、行われるゲームが逃走中である必要性をあまり感じませんでした。ハンターに捕まればゲームオーバーという根幹の部分だけは残っていますが、それをうまく活かせていません。
基本的に逃走者同士のチープな心理戦がメインとなってしまっており、先述のようにハンターからいかにして逃げるか、といった鬼ごっこの醍醐味が失われてしまっています。
逃走者同士でやいやいやりあった後、突然ハンターが現れてろくに追いかけっこもせずに確保、の繰り返しです。移動中に曲がり角から突然ハンターとか、ミッションのチェックポイント付近にハンターがいて近づけないとか、番組でよく見た展開が一切ありません。もっと逃走してください。
発動したミッションも、21ゲームとかいうわけわからない視覚的に何の面白みのないミッションと、説明不足で何してるかわからない&暗い映像が多くて見づらかった、具体的に何をすればいいかわからないエリア移動のミッションでしたし。
協力、あるいは裏切りだったりといった要素をミッションに絡めるならば、過去の逃走中で登場したギミックを流用することができたと思えてしまいます(誘惑の扉・自首するとハンター放出など)。
逃走中においてミッションはゲームを盛り上げる欠かせない存在です。デスゲームものであるならば、参加者を脱落させる仕掛けとしても、もっと多くの理解しやすく画的にも面白いミッションを登場させるべきでした。
余談ですが、ゲームの最後のステージが”聖地渋谷”と大きく出た割には、肝心の渋谷は”どこかのビルの屋上”を指していたようで、スクランブル交差点すら出てこないお粗末なものでした。非常に残念です。いっそのこと渋谷なんて言わないほうがよかったです。また、デスゲーム開始以降はほとんど建物内がメインになっているため、画的にもあまり面白くなかったです。
あと乗っ取られて以降、マーク大喜多さんのナレーションが消えたのは悲しいです。デスゲームのナレーションとして引き続き声を当ててほしかったです。
3.ハンターについて
オリジナルのハンターは割と序盤で消滅。以降はワイルドハンターしか登場していません。個人的な要望ですが、もう少しオリジナルのハンターも活躍してほしかったです(あるいは終盤でワイルドハンターに逆襲するとか)。
また、設定の粗がある部分がありました。
冒頭、ガチャピンが宣伝用の着ぐるみのふりをしてハンターを振り切るシーンがありますが、設定上、ハンターのサングラスには逃走者の情報がすべて登録されているため、視界に入った瞬間即座に追跡されます。
したがって、あのごまかし方は不可能です。ギャグシーンを作るためにその設定はなかったことになった。あるいは、スタッフが設定を忘れていたのでしょう。後者の場合なら、きちんと履修してきてください。
さらに、ワイルドハンターについて説明不足が過ぎます。髪の長いワイルドハンターとそうでないものの違いは結局何だったのでしょうか。吸収されたハンターはともかく、それ以外のハンターはどこに行ったのでしょうか。
さして重要ではありませんが、もう少し説明が欲しかったです。
総括すると、舞台装置として用いるうえで、逃走中というゲームをうまく使いこなせておらず、それにより「これ逃走中である必要ある?」といった感想が出てしまいます。特にミッションと鬼ごっこ部分がうまく使われていないのが残念です。
まったく別のオリジナルゲームを用意してアイドルのファン向けに作ったほうが、逃走中オタク的には良かったです。まじで逃走中である必要性が皆無です。
公開前の撮影中に、スタッフとのトラブルをきっかけに炎上するなど、逃走中という番組自体の評判を落としかねない出来事が発生するなどの事件も発生しており、映画の内容も含めていちファンとして残念としか言えない作品でした。
次回作をにおわせる終わり方でしたが、もし次があるならその時はちゃんとした”逃走中”の映画を作っていただきたいものです。