「八犬伝と馬琴の物語をそれぞれ単体で観たいかも!?」八犬伝 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
八犬伝と馬琴の物語をそれぞれ単体で観たいかも!?
予告からかなり期待していた本作。公開3日目の舞台挨拶中継付き上映回で鑑賞したのですが、いつもはガラガラの劇場がほぼ満席でびっくり!これは大ヒットの予感がします。
ストーリーは、江戸時代の人気作家・曲亭馬琴が、友人の人気絵師・葛飾北斎に新作小説「八犬伝」の内容を語りながら「虚」の世界の想像を広げ、北斎がそのイメージを絵に表すという交流を長年続け、物語がいよいよクライマックスを迎えようとしたとき、馬琴は視力を失ってしまうが、息子の嫁・お路の助力を得てついに完成させるまでの姿を描くというもの。
「南総里見八犬伝」はタイトルと設定ぐらいしか知らなかったのですが、本作を通してがぜん興味が湧いてきました。当時としては斬新だったであろうファンタジー作品を世に送り出したことは、本当にすばらしい功績だと思います。そんな作品を読んだ当時の人々が思い描いた壮大なスケールと躍動するキャラクターが、最新技術を用いて見事に映像化されていてため息が出ます。その世界観に引き込まれ、さすがに原文で読みたいとは思いませんが、映像化作品があれば改めて触れてみたいと感じます。
また、馬琴についても学校で学習した程度のことしか知りませんが、本作で描かれる姿に触れて、もっと知りたくなってきます。作中の馬琴がどこまで史実として描かれているかはわかりませんが、北斎との友情、家族との関係性、自身の病状、「八犬伝」完成までの苦難など、ドラマチックな人生に惹かれるものがあります。中でも、鶴屋南北とのやりとりから、虚実入り混じることへの見解の相違が、馬琴の創作に大きな影響を与えたような描き方に興味を覚えます。一方で、我が地元の名士・渡辺崋山の言葉が、馬琴の背中を力強く押すような描写も心を打つものがあります。
そんな「虚」と「実」の融合した一大ファンタジー絵巻が、その相乗効果によってどんな感動的な作品に仕上がっているのかと期待していたのですが、残念ながらどちらも中途半端になってしまっているような気がします。単体で描けばどちらもおもしろそうなモチーフであり、「八犬伝」は言うに及ばず、馬琴の波乱に満ちた人生も、「八犬伝」完成までの過程にも熱い物語があったことが見てとれます。それなのに、「虚」と「実」を交互に描くことで、感情が細かく分断されてしまったような気がします。アプローチとしては大変興味深い作品ではありましたが、期待には少し届かなかったかなという印象です。
とはいえ、虚構パートの若手俳優陣のがんばりと、実話パートの実力派俳優陣の演技は、どちらも見応えがあります。興味があれば、劇場で作品世界に浸るのも悪くないと思います。
主演は役所広司さんで、確かな演技力で馬琴像を見事に創り上げています。脇を固めるのは、内野聖陽さん、寺島しのぶさん、磯村勇斗さん、黒木華さん、土屋太鳳さん、渡邊圭祐さん、板垣李光人さん、水上恒司さん、鈴木仁さん、小木茂光さん、立川談春さん、栗山千明さんら。
舞台挨拶では、役所さん、内野さん、渡邊さん、板垣さん、水上さん、鈴木さん、栗山さん、曽利監督が登壇してお話しされました。実年齢では役所さんよりひと回り下なのに、役の上では年上である北斎を演じていたと話す内野さんの恐縮した姿が、なんだか印象的でした。役所さんと互いにリスペクトし合う姿にも、お二人の人柄のよさを感じました。
おじゃるさん、共感有難うございます。
この映画は、滝沢馬琴が「南総里見八犬伝」を書きながら、虚と実について考え(鶴屋南北との会話シーンにそれが象徴的に描かれていました)、映像でも、虚と実を交互に描いてみせるという構造になっていて、その点で、こういう映画にならざるを得なかったのではないでしょうか。