「キワモノと思ったら結構良く出来てます、意見は言わないより言った方がいい」HOW TO BLOW UP クニオさんの映画レビュー(感想・評価)
キワモノと思ったら結構良く出来てます、意見は言わないより言った方がいい
「そんな事したら企業が困る以前にそこで働く労働者が真っ先に困窮するでしょ」との批判に「一時的には確かにそうだが、その先を見据え根源的なインパクトが必要」との趣旨の噛み合わないセリフ(一語一句このとおりではありません)が本作に正直に登場する。全てはこのセリフに集約されましょう。
ゴッホの「ひまわり」にスープをぶちまける環境活動家、こんなニュースは頻繁に、逆に言えば凝りもせず彼等は繰り返し世界中のニュースとなる。彼らは名画がしっかりとガラスで覆われていることを百も承知で行っているわけで、完全にパフォーマンス。化石燃料が、CO2が、温暖化が、と声高に叫ぶ。彼らが着ているウェアもシューズも化石燃料から出来ていると言うのに。
そう、矛盾だらけなのです。他にやりようはないのか?と責めても無駄でしょう、最も効率よく衆知の注目を浴びる事が第一義なのですから。黙っていられない状況で飽きもせず過激なパフォーマンスを繰り返す。矛盾を孕んでもこの危機をアピールしたい一心の彼等は逮捕なんてまるで恐れてはいない。迷惑千万だからこそ伝わると確信しているのですから。
本作で描かれるパイプライン破壊も全く同次元でしょう。そして淡々と事の次第を描く本作は明らかに彼らの側に立っている。そもそもが、再現するようなドラマを構築し、撮影後はゴミと化すパイプラインのセットまでこしらえて、ちょいとばかしド派手に爆破して大気を汚染して映画を作っているのですから矛盾もここに極まれり。撮影も16mmフィルムとクレジットにある、どこまでも化石燃料に依存しているわけで。そんな仔細を乗り越えて趣旨を分かって欲しいからこそ映画にしたのでしょう。
そんな使命を担った本作は、しかし巧妙に練った策が功を奏し、ヒリヒリとサスペンスのトーンを維持して十分に鑑賞に値するのです。開巻しばらくは、若者計8人が次々現れ何しようとしているのか一向に明らかにせず、退屈でもある。しかし突然2人の名前がテロップされ、その2人のここに至るまでのショートストーリーが描かれる構造が明らかになり俄然画面に緊張感が走り出す。それぞれ環境との絡みに温度差はあり、テロリストと決めつけるにはいい加減な奴等も混じる。
豪邸の清掃のアルバイトをしていた女が全く同様に、爆弾製造現場の掃き掃除をするなんて、映画的に実に良く出来ている。男女の性差、貧富の差、LGBTQ、難病、人種ミックス、大怪我とまるでエッセンスを洩れなく配し収斂させる見事な作劇です。爆破後のアリバイも用意周到で、監督のダニエル・ゴールドハーバー、侮れません。
問題は邦題が「HOW TO BLOW UP」ってことでしょう。原題は「How to Blow Up a Pipeline」で、明確に石油パイプラインを爆破すると謳っているのに、対象物を省略してしまった。だから、私はパイプライン破壊が目的とはまるで知らず、冒頭しばらくは退屈してしまった。本作のセールスポイントにあるようにFBIがテロを助長する危険から警告が発せられたとか。それ程にセンセーショナルな作品ですよとアピールしたい意図が見える。しかし一方で不寛容な日本で「石油パイプラインの爆破方法」なんてタイトルを、中国共産党さながらの日本の公安が放っておくとも考えられず、横槍を入れたか、配給側が自主規制したのかもしれません。
キワモノと決めつけず、寛容な心でご鑑賞をお薦めします。こうまでして人類への警告を、発さないより発した方がいい、と思うのです。