「【”警察は司法制度の鉄則”疑わしきは被告人の利益に”を遵守しているか!”今作は青年がある思いを抱え逃走する姿と逡巡しながら彼を追う刑事、青年を支える人達の姿がムネアツなヒューマンサスペンスである。】」正体 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”警察は司法制度の鉄則”疑わしきは被告人の利益に”を遵守しているか!”今作は青年がある思いを抱え逃走する姿と逡巡しながら彼を追う刑事、青年を支える人達の姿がムネアツなヒューマンサスペンスである。】
ー ”疑わしきは被告人の利益に”
・・ご存じの通り、司法制度の鉄則である。且つ警察の捜査の際にも常に念頭に置くべき判断基準である。これがなされない捜査では、戦時の特高思想が警察に濃厚に残っていた昭和20年代を主に、数々の冤罪を生み出してしまっていた。つい最近でも、昭和40年代に死刑判決を受けた男性が長年の控訴の末に無罪判決を勝ち取った事は多くの方が知っている事であろう。
多くの免罪事件を無罪にする潮流を作った昭和50年に最高裁が示した”白鳥決定”は、故に、画期的な判断であったのである。
今作では、この鉄則がないがしろにされるとどのような事になるかを、今や邦画の若き名匠の域に達しつつある藤井道人監督が、エンターテインメント要素を盛り込みながらも、見事に描いているのである。-
■一家惨殺の罪で死刑宣告を受けた18歳の青年、鏑木慶一(横浜流星)が歯茎を自ら傷つけ血を吐くフリをし、病院に搬送途中に脱獄する。そして、彼は容姿を変えながら、真実を求めて逃亡の日々を過ごしていく・・。
<Caution!ここからは、鑑賞後に読んでください!>
■鏑木が、逃亡の日々で出会った善なる人達
1.大阪の工事現場で出会った野々村(森本慎太郎)。
借金がかさみ、ブラック業者の元で仕事をする中怪我をするが、偽名を使い働いていた鏑木が”労災隠し”を工事監督(駿河太郎)に告げ、2万円を貰う事で鏑木と野々村の間に友情が芽生えるのである。
ー このシーンでも、社会派でもある藤井監督は”労災隠し”という現代でも起こっているだろう事を、さり気無く糾弾しているのである。ー
2.出版社で勤めるライターの安藤(吉岡里帆)。
フリーライターの身分で那須と名を変えネットカフェで寝泊まりしていた鏑木の真実に気づきつつ、弁護士である父(田中哲司)が痴漢の免罪により有罪を受けた事もあり且つ彼の優しい素顔を知り、庇う姿勢に転じて行くのである。
3.諏訪の養護施設で働く酒井(山田杏奈)。
介護士の桜井を名乗る鏑木の優しさに惹かれて行く。だが、鏑木が介護士になった理由は別にある事が再後半に描かれるのである。
◆感想<印象的だったシーンを記す。>
・鏑木慶一を演じる横浜流星さんの、次々に変装しながらも哀しみと強い決意を秘め、全国を逃げながら、真実を追い求めるためにまずは大阪の工事現場で金を貯め、次にフリーライターになり出版社の数々の自身の事件の取材データを写真に撮り、諏訪の介護施設の介護士になりながら、一家惨殺事件の唯一の生き残りであるPTSDになった老婦人(原日出子)を介護しつつ、真実を口にして事件の真犯人を思い出して貰うように涙を流しながら頼む姿が沁みるのである。
・鏑木恵一を執拗に追いつつも、心のどこかで”彼は犯人ではないのではないか。”という疑念を持ちつつ、愚かしき警察署長(松重豊)のプレッシャーにより苦悩する又貫刑事を演じた山田孝之さんも、厳めしい顔を終始崩さない中で、秘めた苦悩の感情を僅かに表す流石の好演である。
・愚かしき警察署長の”18歳か。(成人として裁けるので)凶悪化する少年事件の抑制として極刑にすればよいだろう。”という言葉を聞き、証拠が不十分なのに”犯人であると決めつける”姿が恐ろしい。
・又貫刑事は安藤の家に匿われていた鏑木に銃を向けるも、撃たない。部下に”何故、撃たなかったのですか!”と言われても、苦悩の表情を浮かべているのみである。
再び起きた一家殺害事件の狂った犯人(山中崇)が捕まった際に口にした”模倣犯じゃないよ。”という言葉と鎌による犯行手口が余りに似ているために、更に疑念を深めて行くのである。
・そして、諏訪の介護施設で酒井が”鏑木が老婦人に真実を告げるよう必死に求める姿”をリアル配信する。
又貫刑事が、酒井がプライベートで桜井と出掛けた際の動画を見て、現地に駆け付け、鏑木を追い詰めた際に、彼は左利きの鏑木の右肩の肋骨の下(一般的に、致命傷にならずに後の生活にも支障を来さない部位と言われている。)に的確に銃弾を撃ち込む姿も沁みたなあ。
■又貫刑事が、漸く捕らえた鏑木と拘置所で対峙するシーンは、今作の白眉であろう。
刑事は静に鏑木に問うのである。”身体はどうだ。一つ聞いていなかった事がある。何故、逃げた。”
それに対する鏑木の答えが沁みたなあ。
彼は柔らかい表情で”信じたかったんです、この世界を・・。そして、人間が好きになりました。生きてて、良かったと思いました。”と又貫に告げるのである。
彼が、安藤に”信じているよ。”と言われた時に流した涙の意味が、ここで再度分かるのである。
そして、ついに又貫刑事は記者会見を開き、鏑木の誤認捜査の可能性がある事を認めるのである。
・更に、捕らえられた鏑木が免罪である事を街中で訴える、それまで顔も知らなかった野々村、安藤とその父、酒井の姿も沁みるのである。
<そして、再び法廷に立つ鏑木。心配気に見守る野々村、安藤とその父、酒井の表情。
裁判長が”主文を言い渡す。”と言った後に、無音になるシーンはハラハラしたなあ。何故ならば、死刑判決は最初に主文を言い渡すことが多いからである。
だが、無音の中、歓喜の涙を流す安藤、酒井の顔が映し出され、拍手が沸き起こっている姿が大スクリーンに映し出された時に、久方ぶりに涙が込み上げてしまったモノである。
今作は、若き青年が”ある思い”を抱え逃走する姿と逡巡しながら彼を追う刑事及び青年を支える人達の姿がムネアツなヒューマンサスペンスなのである。>
<2024年11月29日 劇場で観賞>
<2024年12月1日 別劇場にて、再観賞。初回と同じシーンで涙し、更に初見時以上に胸に熱いモノが込み上げました。故に、評点を5点に変更させて頂きます。>
NOBUさん、共感とコメントありがとうございます。・_・
思い返すたび、「無罪」で良かったぁ と
傍聴席の後ろの皆に混じり、拍手したい気分になります。
本当に、名シーンだと思います。
共感&コメントありがとうございます。
確かに怖いです・・一審の死刑当然みたいな雰囲気と二審の拍手、ちょっと周囲の人間たちも都合良過ぎないか?と思いますよね、それが裁判なんですかね・・。
おっ、2回鑑賞されたんですね!
2回、3回と観た方が1回目じゃ気づかなかったこと、表情の変化とかも気づけますよね。
雨の中の慾情の福子役の方は初見でしたが艶っぽさはヤバかったですね(笑)
NOBUさんこんばんは。
お誉めのコメントシンプルに嬉しいです!ありがとうございます!
やっぱ藤井監督上手いですね~
前作の青春18×2も最高でしたが、本作も良かったです。また日曜行くとか刺さったんですね~、でも2回目の方がより細かく観れますよね!