「想像以上に嚙みつかれた105分」ババンババンバンバンパイア こひくきさんの映画レビュー(感想・評価)
想像以上に嚙みつかれた105分
正直、最初は「なんだこのバカ映画は」と思っていたのですが、実際に劇場に足を運んでみると、想像以上に面白かったというのが率直な感想です。もっとも、面白さの中身をどう評価するかについては、人によって意見が割れるのもまた事実だと思います。
まずタイトル。昭和歌謡を連想させるリズムに、バンパイアをぶち込むセンスは、もはや真面目に売る気があるのかどうか疑わしい。しかし、こういうふざけた看板を掲げることで、観客は「どうせB級ギャグ映画だろう」という身構え方をするわけです。結果、本編が意外にちゃんと作られていると、「あれ? 思ったより面白いぞ」とプラスに転じる。期待値コントロールの妙です。
主演の吉沢亮は、国宝級イケメンだの何だのとアイドル的な扱われ方をされがちな人ですが、ここでは見事に“振り切った”演技を見せています。銭湯に住み着く450歳の吸血鬼という荒唐無稽な役を、ビジュアルの美しさとコメディ的な潔さで成立させてしまう。彼にとってもキャリアの幅を見せる挑戦だったでしょうし、観る側としては「そこまでやるのか」と笑いながら感心してしまう瞬間が多々あります。
演出面では、浜崎慎治監督らしくCM出身らしいテンポの良さが光ります。場面ごとにリズムを変え、時にミュージカル調を挟み、キャラクター紹介を歌でやってしまうという遊び心。これが観客を飽きさせない。逆に言えば、話そのものは単純で、「18歳童貞の血が至高」という世界観にツッコミを入れ出すとキリがないのですが、そこを深掘りさせずに“ノリ”で突っ走る構成になっているのは功罪とも言えます。
ただ、残念な点もあります。予告編とテレビCMで“見どころの大半”を出してしまっているので、劇場での驚きがほとんどないのです。コメディ映画にとってネタバレは致命的で、「あ、これCMで見たシーンね」となると笑いは半減する。マーケティング的には集客に貢献したかもしれませんが、作品体験としては明らかに損をしている。ここは日本映画界全体にありがちな「宣伝で出しすぎ病」の典型例で、改善の余地大といえるでしょう。
それでも、キャストの熱演、テンポの良さ、そして原作の“荒唐無稽さ”を実写に落とし込む工夫は、評価に値します。特にインティマシー・コーディネーターを入れて裸や身体的接触の描写を丁寧に扱った点は、現代的な制作姿勢として好感が持てます。バカバカしさと俳優の尊厳をどう両立させるかという課題に、一定の答えを出しています。
総じて本作は、「深いテーマ性を求める映画」ではなく、「想像以上に笑えて、しかもちゃんと作られている映画」という位置づけに収まるでしょう。評価は賛否両論ですが、私はこのジャンル映画としての潔さを評価したい。観客が「バカバカしいけど楽しかった」と笑顔で劇場を出られるなら、それで十分に成功なのです。むしろ、そういう体験を提供する作品が少なくなった今、存在意義は小さくないと思います。


