雪の花 ともに在りてのレビュー・感想・評価
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小説版を読みましょう
不治の病であった天然痘から人々を救うべく、私財をなげうって種痘の苗を持ち込んだ実在の町医者の話。題材としては素晴らしく、原作の小説をぜひ読みたいと思った。
ただ、この映画版は正直最後まで観るのが辛かった。
特に気になったのは台詞まわし。脇役の説明的で不自然な台詞や、はつが突然紙漉歌を歌い始める違和感。場面場面で唐突に(時には字幕付きで)出てくる短歌は正直鼻についた。
言葉も方言が出たり、標準語だったりといかにも不自然で中途半端。江戸時代の福井のお話とは到底思えない。
退屈に感じたのは物語が単調で山場が山場として描かれてないから、というのもある。
作中でいくつかの困難や障害が立ちはだかるんだけど、どれもあっという間に解決してしまう(しかも誰かに何とかしてもらう)。
困難を乗り越える際に主人公の内面の葛藤や人間性が深掘りされることもなく、どこまで行っても感情移入ができない。
清く正しい主人公、理解のある妻、良き友、苦しむ民、尊敬できる師、無能な嫌味な木端役人、偉大なる名君…あらゆる登場人物がステレオタイプに記号化されており、人として魅力を感じる余地がない。
困難を乗り越えた後もアッサリしたものだ。命からがら峠を越えた後、誰も文句を言わない。
旅の後、商人から侠気で金子を返された主人公は一礼したのち無表情でさっさと踵を返し家に帰ってしまう。
家に帰れば留守を守った妻には心配した様子もなく、人知れず寂しさを滲ませることもない。
妻が「えっへんえっへん」という姿が不自然に感じるのも裏付けとなる人物描写がなく、台詞が浮いてしまっているからだろう。
リアリズムもあまりない。
疱瘡の患者や死者の描写も冒頭の1シーンのみで、疫病が広がり民の命が失われる悲壮感が言葉でしか語られない。罹患した村人も知らないうちに死んでいて、感情移入するには距離感がありすぎる。そのため主人公の強い使命感がイマイチ伝わりにくい。
何でもかんでもグロテスクな描写がいいとは思わないが、あまりに排除してしまうと物語に真剣味が無くなってしまう。
数少ないアクションシーンも酷い。
敵も味方も隙だらけで、松坂桃李が強いのではなく、浪人たちが桁外れに弱すぎる。これでは単なるギャグシーンだ。また別の場面では店の中で不埒者が刀を抜いているのに商家の旦那は驚いたり逃げたりする様子がなく、これもまた不自然だ。危機が危機として描写されない。
終盤、伏線回収で奥方が太鼓を叩くシーンも、まあとにかく酷いとしか言いようがない。男まさりの勇壮な姿を見せるなら腰の据わった立ち姿と迫力あるカメラワークで奥方の強い信念に満ちた表情を見たいところだが、ニコニコした芳根京子が腰の浮いた状態でぴょんぴょん飛び跳ねて太鼓を叩く姿は猿にしか見えない。それをやや引きの画で映しているのだからもはや悪意しか感じなかった。
2時間近い上映時間を使った割には、あらすじ以上のものがなにも心に残らない、ダイジェスト版のような作品だった。この内容なら60分で十分だ。
先人達に感謝
笑顔と優しさに癒される作品
正しいお話
昔、小学校の体育館で観たような良い映画
まるで学芸会のような村の男たちの会話にはじまり、そのあとも松坂桃李と芳根京子、松坂桃李と吉岡秀隆、松坂桃李と役所広司、松坂桃李と三浦貴大、松坂桃李と益岡徹の会話。美しい音楽。まるでオーディオ・ブック聴いているみたい。
そのまんまラジオ・ドラマや中高生の演劇に使用できそうな完璧な脚本。
とってつけたみたいなお粗末な殺陣と風吹の遭難シーン。
申し訳ないが、芳根京子の太鼓にもえっへんえっへんにも萌えることはない。
会話劇の合間に挟まれる美しい風景。
しわひとつ、しみひとつ、ついていない美しい着物。
(衣装さんに物申す。「敵」観てください。長塚京三のパジャマ、実際に今まで寝てて起きた人のパジャマのしわ、よれでしたよ。)
良い話なのに残念だったのは、なんかトントン拍子に話が上手く進んで、大変な苦労が伝わってこなかったこと。
公開一週目なのに貸し切り鑑賞でした。
医療関係者の方々には頭が下がります。
こういう皆んなに観てもらいたい題材ほど、もっとエンタメ作品として作ったらいいのに。
キノシタグループさんありがとうございました。
これ、本当に「雨あがる」作った人が作ったの?
静謐さ
あゝ栃ノ木峠
ひれ伏す木っ端役人、あっぱれ、あっぱれ
小泉堯史監督作品と覚悟して鑑賞。
小泉監督の世評は知りませんが、黒澤明監督の愛弟子と言われてデビューして以来、全作品を鑑賞しています。小泉監督は、画面の構図と色彩にこだわる職人のように私は理解しています。他方で、例えば、「雨あがる」での林の中での寺尾聰の立ち回りは上手く演出できた格好良いシーンで好きなのですが、その他動きのあるシーンは、どの作品でも、何かぎこちないものを感じています。また、役者には(独特の)演技を付けているせいなのか、あるいは逆に演技指導を全くしないせいなのか分かりませんが、役者の演技はこれまたぎこちなく、語りは棒読みのように感じられるシーンが少なくありません。例えば、本作冒頭の百姓3人の語り合いがそれで、”本作は最初からかい!?”と少々引きました。
ただ、他の人のレビューに松坂桃李が台詞棒読み…とある意見を見ましたが、それは間違いかと。そのようには思えませんし、むしろ松坂のあの演技があればこそ、本作は破綻なくまとまっていると評価しています。ドラマ「御上先生」といい、本作といい、松坂は上手い役者です。
芳根京子はしっかり者の奥方姿が凛々しくて本作を引き締め、本作を良作に仕上げています。ドラマ「まどか26歳、研修医をやってます!亅とは全く異なる魅力があります。
松坂が、家老から褒美として御殿医への就任を申し付けられて断るシーンと、芳根に同じ内容を報告するシーンとは、重複してクドく感じられ、映画的省略をしてしかるべきでは?と再編集したい気持ちに駆られます。また、エンディングのストップモーションは、不完全で映画的興趣が損なわれている気がするのですが、私だけでしょうか?
ただ、これもあれも、すべて小泉監督テイストとして目をつぶって許せる程度のものです。総じて言えば、時代劇の王道を目指し、愚直に作られた良作時代劇です。
マカロニウエスタン風時代劇「室町無頼」を見た後の、ちょうど良い口直しになりました。
毒にも薬にも種痘にもならぬ小泉作品
大好きな時代劇で原作者も役者も好きだけど、面白みのない小泉堯史作品なんで、予防接種代わりにバーを下げといてちょうどよかったです。幕末の福井藩で種痘を広めた町医者のフツーにいい話しなんだけど、作品全体が上っ面だけで深みも奥行きもなく、冒頭の疱瘡患者が発生する山村のシーンからして、妙な違和感が気になって映画の中にすんなり入れませんでした。違和感の原因は、固定フレームの中で複数の役者さんが出入りしてセリフを言う演出のため、わざとらしい田舎芝居になっていることです。さらに脚本が大時代的で大げさなセリフばかりなのが致命的で、出演者全員が急に大根役者になったかのように感じました。場面のつなぎも唐突感があるところが多く、なんか欠点ばかり気になってしまい残念。映画的な見せ場は、猛吹雪の中、雪山を突破するシーンだけど、ここでも固定フレームで撮っているのでイマイチ。役者さんはベテラン揃いだけど、こんな脚本を読まされて気の毒でした。
「音楽と共に最高傑作でした」
地味だが良作
久しぶりに桃李くんの侍姿
退屈なシーンが続く時代劇は、古き良き時代劇と言えるのか?
小泉監督のこれまでの映画は、
個人的にはあまり合わない感じの作品が続き、
当初から期待値低めのところから、いざ鑑賞。
退屈な作品だった。やっぱり合わない。とにかく眠くて辛かった。
控えめなトーンが続く、単調な展開で。
主人公が、ピンチに陥る山場が、主として2つ。
1つは、種痘の苗を越前福井に持ち帰る為に、冬場の峠越えを敢行する場面。
なぜ吹雪の中行くのか。朝倉軍だって冬の移動はしないのに、なぜ冬?
2つめは、役人が仕向けたと思われる悪党が、武力で邪魔に入る場面。
悪党を返り討ちにするのはともかく、
結局は、仕向けた役人より上の役職にいる者の力を使い、政治力で邪魔者に勝つわけで。
主人公の手柄か、これ?
山場らしき所2つで、大きなクエスチョンを抱えるストーリー。
主人公の功績、ちょっと少なすぎやしないか?
実質的な種痘成功の功績は、役所広司と吉岡秀隆の役どころの人物であり、
主人公は、無謀な峠越えを敢行し、失敗しかかっただけ。
あわや「八甲田山」の遭難寸前じゃねーか!!!
原作が悪いのか、脚本が悪いのか。感動するには程遠いストーリーだった。
あと、主人公松坂桃李と、ヒロイン芳根京子という組み合わせも、
「居眠り磐音」で既視感あり。新鮮味に乏しかった。
昨年「SHOGUN」で真田広之作品がクローズアップされた際に、
「時代劇の復興」というキーワードが提示されることになった。
真田は、現代劇や西洋劇に寄せすぎた今の時代劇に、危機感を抱いているらしく、
古き良き時代劇にもう一度、光を、という意味で「SHOGUN」の制作に携わったという。
そして、真田のそれは大成功し、大成果を挙げた。
でもそれは、古き良きの精神だけでなく、ハリウッドやディズニーという、
大きな資本が入った功績のほうが大きい。スケールの大きい作品だからこそ、
古き良き時代劇の精神が世界に示されたのだ。
たとえば、最近の話題だと、「新暴れん坊将軍」がバズっていた。
かなり斬新なアイデアを入れた、現代劇寄りの時代劇である。
やはり、エンタメ要素が強くないと、時代劇は古臭いのではないだろうか。
今回のこの作品は、ストーリー的にも、地味で退屈な時代劇だった。
ちょっと古臭い印象のほうが強かったように思う。
名を求めず、利を求めず
予告から、命をめぐる感動の物語を期待して、公開2日目に鑑賞してきました。そこまで大きな感動はありませんでしたが、なかなか素敵な作品でした。鑑賞後の後味も悪くないです。
ストーリーは、江戸時代末期の福井藩で猛威を振るった疱瘡に対し、有効な治療法もなく無力感に苛まれていた町医者・笠原良策が、「種痘」という予防法が異国から伝わったことをある医者から聞き、それを学ぶために京都の蘭方医・日野鼎哉に師事し、私財をなげうって命懸けで種痘の苗を福井に持ち込み、妻・千穂とともに周囲の誤解を乗り越えて種痘を広げる姿を描くというもの。
人命に関わる医療現場で新たな治療法や薬を試すのは、優れた医学知識を持ち合わせていない者にとっては現代でも躊躇するものです。ましてや医学も科学の知識も乏しい江戸時代においてはなおさらです。加えて、良策の訴えに耳を貸さない奉行所、面子を保つために妨害工作を行う従来の漢方医たち、それに扇動される町の人たち等が立ちはだかり、まさに孤立無援です。
そんな中、私財をなげうって奮闘する良策の姿が熱いです。目の前で無慈悲に失われる命、それをどうすることもできずに見守り、悲しみに暮れる家族の姿を目にして、医者としての使命感に燃え、己のなすべきことに全力を注いだのでしょう。「名を求めず、利を求めず」を貫く姿勢が、本当に尊いです。そんな良策の思いをよく理解し、明るく支え続ける千穂の姿も眩しく映ります。
全体を通して予想を裏切るような展開はありませんが、雪の峠越えを命懸けでやり遂げた父親たちが、「お金をもらってやるような仕事ではない」と言って良策に報酬を返すシーンに思わず涙が滲みます。良策の熱い思いが、周囲の人の心を動かし、やがて藩をも動かしていく、終盤の大逆転に溜飲が下がります
こんな感じで心揺さぶられる話ではあるのですが、前半のゆったりテンポと起伏のなさが少々眠気を誘います。もう少しテンポを上げ、良策の苦労と苦悩をもっともっと感じさせてほしかったです。とはいえ、この事実を全く知らなかったので、とても勉強になりました。
主演は松坂桃李さんで、熱のこもった演技で良策を演じています。脇を固めるのは、芳根京子さん、三浦貴大さん、宇野祥平さん、坂東龍汰さん、矢島健一さん、益岡徹さん、山本學さん、吉岡秀隆さん、役所広司さんら。中でも、矢島さん、益岡さん、山本さんらベテラン勢が、短い出番でもしっかりと爪痕を残す、いい仕事を魅せています。
『劔岳 点の記』を想起させる雪山シーン
肝心な「克服」が如何にも軽い
鑑賞前は前情報を極力入れないようにしている私。ところが、先週に新宿ピカデリーを訪れた際、通常の予告編とは別の「本作の解説動画」をついつい観続けてしまい、大筋でどんな話かを知ってしまうという想定外。まぁ、松竹作品だし松竹直営映画館で売り込みするのは当然のことで、私のリスク対策不足ですね。と言うことで、劇場鑑賞は見送ろうかなとも考えたのですが、小泉堯史(監督・脚本)×上田正治(撮影)の最新作は観ておくべきかと考え直し新宿ピカデリーへ。上田さんの訃報の影響もあったのかと思いますが、10時50分からの回はなかなかの客入りです。
と言うことで、まず作品のルックは言うまでもなく素晴らしい。名匠・上田正治の撮影技術は自然の美しさ、過酷さ、壮大さが伝わりながら、どこをどう見ても紛れもなく時代劇映画に仕上がっていて、スクリーンを通してその世界観に引き込まれます。偉大なお仕事に感謝するとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。
次に内容についてですが、、ふむ、やはりと言うかそりゃそうなんですが、数日前に知ったばかりの大筋通りの展開が続きます。ですが、史実がベースであるためそれはある程度当然のことで、重要なのはその見せ方。前作『峠 最後のサムライ』だって最後の最後まで「河井継之助の落とし前のつけ方」に目が離せなかったわけですから、今作でも「笠原良策の偉業」をどう見せてくれるのか集中して観続けます。
ところが、、、パターンとして乗り越えなければならない「困難」からの「克服」の繰り返し構造なのですが、肝心な「克服」が如何にも軽い。。中でも今作最大の「困難」である「峠越え」。猛吹雪の中、優に腰の辺りまで沈み込む雪をかき分けて峠を登っていくのですが、皆が倒れ込んで動けなくなるほどの状態から、助けが来た直後にシーンが切り替わると・・・「そんなわけない。。」と苦笑せざるを得ず、、もうこれは脳を空っぽにして全部受け入れましょうと開き直るしかない。
何なら、劇場も皆さん泣いている様子はなく、むしろ笑いがこぼれるシーンがチラホラ。原作未読のため、どこまでが映画オリジナルの脚色かは判らないものの、主にフィクション性が高い部分はそれまでのトーンと異なった思い切りのよい演出が。例えば「良策(松岡桃李)が悪漢に囲まれるシーン」の立ち合いと台詞は、そのあまりの変さに劇場の方々から笑い声。また良策の妻・千穂(芳根京子)も大活躍で、こちらも「質屋に押し入ってくる強盗」を見事に返り討ちした後の亭主とのやり取りがまた可笑しく、更に終盤でその伏線を回収する「男之助」はもうニコニコして観るしかありません。一応私の解釈としては、立派で真面目な笠原夫妻に対する「微笑ましいギャップ」を見せる意図かな、なんて。お茶目ですね。
とは言うものの、正直言って映画作品としては少々物足りないかな。。これだけの「困難」と「克服」を117分でまとめるのは「やや詰め込みすぎ」で、結果的にこの偉業を処理しきれてないように思います。イマイチ大変さが伝わりづらく、作品に対して思い入れること出来ずに残念。なお、映画は映画として(史実や原作との違いを理由に、低評価をつけるのは違うかと)、参考までにWikipediaを斜め読みしてみるだけでも、笠原良策の正に「人生をかけた」歴史が垣間見えますよ。
ちょっと物足りない
悪くもないけど、凄い面白いわけでもない。一番気になったのは役者さんのセリフがそのまま台本読んでるみたいで堅くて浮いているような気がして違和感が拭えなかったです。松坂さんや役所さん、またドラマ「ライオンの隠れ家」で主人公の弟役で名演が光った坂東さんは、役じゃなくちゃんとそこに生きている人たちという感じがしてさすが、自然体でとてもよかった。風景はとても風光明媚で美しかったですね。そこは大きな画面だからこそ映えていた。天然痘のワクチンを文字通り一命を賭して運び広げ人民に尽くしたことは素晴らしく、感銘を受けます。友人や蘭方医仲間、また知人などいつ裏切られるのかと、深読みして勘ぐって見ていましたが、そんな凝った人間ドラマは全くなく、品行方正な物語にちょっと物足りなさはあったかも。一緒に行った母は(70代)、大満足だったのでご年輩向けのお話しなのでしょうね。
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